第161話 蔡平
[2/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
正宗は二人に報告を求めた。すると伊斗香が前に進み出た。
「正宗様、黄承彦殿の言われた通りでございました」
伊斗香は即答した。
「そうか」
正宗は瞑目し沈黙すると思案する表情だった。彼の中では紗耶夏の夫と息子の助命は規定事項になりつつあった。紗耶夏は恭順のために自ら肉を切っている。ここで紗耶夏の家族を助命しても問題ないといえた。今回のことが助命の前例となるだろうが、彼女の行ったことを実践することは他の者が行うのは容易でないからだ。それに、彼女と同じ行為を行うということは正宗への忠誠を誓うことと同義であり、蔡一族との決別を公に誓うことになるからだ。
正宗はどのくらい考えただろうか。その場に居合わせた者達が正宗に視線を向けた。
「紗耶夏。此度のお前の一連の行動を鑑み、お前が蔡一族の通謀の可能性はない証といえる。余の名において、お前の家族の助命を約束する」
正宗の言葉に紗耶夏は安堵した表情を浮かべ彼に深く頭を下げた。
「正宗様、ご厚情ありがとうございます。このご恩終生忘れません」
紗耶夏は感極まった声音だった。彼女は大量の兵糧を寄進し、自らの家族を傷つけ、縁戚関係にある一族の関係者を虐殺した。全ては夫と息子を救うためだろう。その強い思いを内に秘め気を行動していただけに、正宗の言葉は張り付けた気持ちを一気に決壊させたのだろう。
「礼を言うことはない。家族の命を救ったのはお前自身の行動によるものだ」
正宗は先ほど仕置きの済んだ村の方を見ながら紗耶夏に言った。
「正宗様、お願いしたき儀がございます」
紗耶夏は正宗に拱手し頭を下げた。
「申してみよ」
正宗は紗耶夏に視線を向けた。
「お願いしたき儀は蔡徳珪討伐を終えたら、当家の屋敷にお招きしたいと考えております」
「お前の屋敷にか?」
正宗は紗耶夏の申し出に訝しむ。朱里と桂花も脈絡がないために掴み所がない様子だった。
「ご迷惑でなければ正宗様を饗応させていただき存じます」
「今回の討伐軍は南郡全体に大きな被害を与えることは必定。戦後処理は時間を要すことになるはずだ」
正宗は暗に紗耶夏の申し出を断った。
「では、戦後処理が済みましたら饗応をお受けくださいませんでしょうか?」
紗耶夏は正宗に頼んできた。正宗は難しい表情をする。戦後処理を終えたら、彼は荊州内を巡察名目で回ろうと考えていたのかもしれない。また、彼は上洛する予定もある。しかし、彼も多忙とはいえ、折角の紗耶夏の申し出を無碍にするのは申し訳なく思い返答に窮している様子だった。
「紗耶夏、考えておこう」
「色良い返事をいただけること楽しみにしております」
正宗は考えた末に返事を先延ばしにした
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ