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ソードアート・オンライン‐黒の幻影‐
第2章 夜霧のラプソディ  2022/11
誰かの記憶:微睡を醒ます曙光
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ゅ、浮遊城へ訪れる数日前までの記憶ですごめんなさいぃ!?」


 気が動転してティルネルさんの肩を揺さぶってしまうものの、聞くところに依ると最近のものに限られているらしい。乱れた呼吸を整えながら、少しだけやり過ぎてしまったのを反省しつつ、溜息を漏らして手を放す。感情の起伏が極端に薄れていた所為か、ひどく疲れた心地さえする。プライバシーの露見で取り乱したところで、何が変わるわけでもないのに。


「………こっちこそ、ごめんなさい………はぁ、何やってんだろう………私………」
「いえいえ、むしろこうして気兼ねなく接して下さって嬉しいです」


 そして、失礼な真似をしてしまってもティルネルさんは変わらず笑顔でいてくれる。本来ならばシステム的に生成された無機質な存在である筈なのに、人間と大差ない受け答えを見せる彼女は確かに不可思議であるのだが、それ故に不安にもなる。
 ここに迷い込んだティルネルさんは、どうなってしまうのか。それよりも、この人は自分が置かれた状況の得体の知れなさに何も思うところはないのだろうか。あまりに事態を把握していないような様子で、危機感が無さすぎるというか、違う意味で不安にされる。流石に失礼だから口に出せたものではないけど。


「それにしても、何もないところですねー」


 辺りを見渡しながら、ティルネルさんが呟く。何も考えていないわけではなかったらしいので、先の懸念は撤回するとして、エルフの視力――――弓を扱うとすれば視力は高めなのかも知れない。多分――――を以てしても、特異なものを観測できないということだろうか。


「私も少しは探索してみたんですけど、色も形も無いと現在地さえあやふやで………」
「一面真っ白ですから仕方ないですよ。でも、きっと大丈夫です」


 妙に優しい、落ち着かせるような響きの大丈夫という言葉が胸に落ちる。
 この場面における大丈夫とは、どういう事なのか。どうにも理解に至らない。でも、この人の言葉や態度は根拠や理屈を超えて心に届いてくるような気がする。それに何故か、親近感のような何かさえ感じる。まるでこの前にもどこかで会ったことがあるような既視感があって、とても会ったばかりという気がしない。本当に不思議な人だ。


「そうだ。少しだけお話しませんか?」
「………お話?」
「はい。私はクーネさんの事を存じ上げていますけど、クーネさんからして見れば私なんて知らない人なんですし、私だけっていうのが不公平というか………えっと、うまく言えないですけど………せっかく会えたから、私の事も知ってほしいですし………ヒヨリさんだってお話は大事って言ってましたし………」


 そう言いつつ、ティルネルさんは自分で広げた風呂敷で躓いて言葉に詰まる。でも、その言いたい事は良く分
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