アインクラッド 後編
圏内事件 4
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慕っていたとして、果たして自分の命をそう易々と投げ捨てることができるはずがない。しかも指輪事件の直後ならともかく、もう半年が経っている。人間の感情なんてものは、時間と共に薄れゆく。それに抗って強い憎悪を持ち続けられる人間などそうはいない。そして、ヨルコがその数少ないうちの一人だとは、マサキには思えなかった。
やはり、考えすぎか……。
マサキがそう結論付けて、息を一つ吐きながら思考回路を閉じようとした矢先、キリトが喘ぐように口を開く。
直後そこから飛び出した響きが持っていた衝撃は、その場の全員を黙らせるのに十分だった。
「違う……そうじゃない。マサキの推理は正しい。そして、カインズ氏もヨルコさんも、死んでなんかない。《圏内殺人》……そんなものを実現する武器も、スキルも、ロジックも、最初から存在しちゃいなかったんだ!」
唖然。
キリトの言葉をその場の全員が飲み込むのに、約十秒の時間を要した。それだけキリトの言葉が衝撃的だったということの証左だ。
そして、それはマサキも同様だった。アスナとエミより一足早く我に帰ったマサキは、キリトの言葉の続きを待ちながらも自身の脳を再び高速で回転させる。
「い、生きてる、って……でも……」
ようやく硬直が解けたエミが、しかし未だ理解できないことを隠そうともせずに言葉を発した。それは尻切れトンボに終わってしまうが、アスナが後を引き継ぐ。
「……でも、わたしたち、確かに見たじゃない。ヨルコさんに短剣が突きたてられて……死ぬところを」
「違う。俺たちが見たのは、ヨルコさんの仮想体が、ポリゴンの欠片を大量に振り撒きながら、青い光を放って消滅する現象だけだよ」
「……なるほど、そういうことか」
キリトがそう言うと、マサキは得心したように頷きながら息を吐いた。
ジグソーパズルがひとりでに組みあがっていくような、拍子抜けする感覚。なるほど、手品の類と同様に、分かってしまえばそう難しいトリックではない。
「さすが、マサキは理解が早いな」
「こんなものでおだてられてもいい気にはならんが」
「マサキ君、どういうことなの?」
感心したようなキリトの言葉をよそに、さっぱり分からないという顔を向けてくるエミ。同じような視線のアスナにも向けて、マサキは面倒くさそうに説明を始める。
「『ポリゴンの欠片を大量に振り撒きながら、青い光を放って消滅』。それがこの世界における『死』だ。そしてそれ故に、俺たちはこの二つの事象を、何の疑いも持たずに結びつけてしまっていた。が、『ポリゴンの欠片を大量に振り撒きながら、青い光を放って消滅』する現象は、プレイヤーの死以外にももう一つあったというわけだ」
マサキは言いな
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