アインクラッド 後編
圏内事件 4
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能性を挙げるとするならば……俺たちに姿を見せて、何か相手に得があるとは思えん。となれば、見せる相手はあの場所にいたもう一人の人物……シュミットになるが……」
マサキの言葉は、そこで途切れた。引き伸ばされた言葉の余韻が部屋の空気に溶けきってなお、マサキが続く言葉を口にすることはなかった。否、できなかった。それほどまでに深く、思考に埋没していたのだ。
――彼はあの後、一連の仕業をギルド《黄金林檎》リーダーの幽霊によるものだと言って怖れた。それが犯人の狙いか? だが、そんなことをして何になるというのだろう。まず考えられるのは、半年前の指輪事件との関連だが……最初からシュミットを殺すつもりなら、わざわざここまで遠まわしにする必要もないはずだ。復讐として、恐怖を与えて精神的に疲弊させてから殺害する? だが、ヨルコの話では、事件以前に彼女たちが命の危険を感じ取っていたようには見えなかった。シュミットだけ特別扱いする理由とは何なのか。彼が事件に関与していたと知っていた? いや、だとすればそもそもヨルコとカインズを殺す理由がなくなる。シュミットの前に幽霊として現れ、恐怖を煽るだけで事足りるはず……待てよ? 幽霊……あの黒いローブが《黄金林檎》リーダーの物だったとして、それだけで暗殺者を幽霊だと思い込むだろうか? 偶然……とは考えられないまでも、グリムロックが弔いの意を込めて使ったとか、色々考えられるはずだ。そもそも、「幽霊」の単語を最初に使ったのは、シュミットではなく……
「……だとしたら」
――あり得ない。どう考えてもおかしい。マサキの脳裏に浮かんだある推論を、自分自身が即座に否定した。だが一旦浮上したものを捨て去るまでにはいかず、むしろマサキの意図に反抗するかのように肥大化し、やがてマサキの口から零れ落ちる。
「……『幽霊』。その単語を使ったのは、シュミットではなかった。《彼女》がその単語を用いたが故にシュミットはあの黒ローブを《黄金林檎》リーダーの幽霊だと思い込んでしまった。……それが、彼女の狙いだったとしたら? だから彼女はわざと窓を開け、自分から窓に歩み寄り、そして窓から落ちた……俺たちの目を窓の外に向け、ローブの暗殺者を発見できるように」
「ち、ちょっと待って!」
思考がそのまま外に漏れたかの如くぶつぶつと呟かれたマサキの言葉に、エミが鋭く反駁した。口元に手を当てたまま動かないマサキに血相を変えて食って掛かる。
「それって、ヨルコさんがグルだって……こと? そんなの、いくらなんでもおかしいよ! だって……だって、そのローブの暗殺者にヨルコさんは殺されたんだよ!?」
悲鳴にも似た声色で訴えるエミの言葉を、マサキは眉一つ動かすことなく受け止めていた。
彼女の指摘はもっともだ。そのリーダーとやらをどれだけ
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