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渦巻く滄海 紅き空 【上】
九十二 女の意地
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バ達を追おうとする左近の後ろ姿を、彼女は呆然と見送った。

「簡単に言えば、身体を粉々にして敵の体内に入り込み、また元に戻して外に出る事が出来る」
正気に戻ったいのがクナイを取り出す。振り翳されたそのクナイを、悪足掻きとばかりに取り押さえつつ、右近は冷笑を浮かべた。

「俺の細胞はお前の身体の中を自由に泳ぎ回り、お前だけの部分を造る事も出来る。つまりちょっとした融合状態…。肉体の共有ってヤツだ」
「共有…?」
「そうだ。そして俺だけに出来る残酷な殺し方…。お前の細胞部分だけを徐々に削り取ってゆく」

ククッと喉を震わせて、右近は眼を細めた。遠ざかりそうになる意識の片隅で、いのは視線をちらりと真横へ投げた。視界の端に映るのは、鋭く聳え立つ崖。


「云わば、暗殺専門の術だ」
相手の身体に入り込む。その肉体の内臓・器官・組織をバラバラにしてほしくなければ、敵の言いなりになる他無い。反面、右近にとっては身体に入り込む事で攻撃を食らわなくなる。
「大した術ね…」
「だろ?」

谷間を僅かに下った地点。
切り立った岩々が立ち並ぶその場は谷と言ってもまだ浅く、更に底の見えない崖が真横に広がっている。
キバが駆け登った崖とは比べものにならないほどの断崖絶壁。一歩でも踏み外せば其処は奈落の底だ。


思わぬいのの賛辞に、右近は気を良くしたようだった。そして、不意に弟の行方を見遣る。
直後、未だキバを追い駆けていない事実に、右近の機嫌はまたもや低下した。
「おい、何やってるんだ!さっさと…ッ、」
「あ、兄貴……」

動かぬ左近に眉を顰める。入り込んでいるいのの身体を動かして弟の許へ向かおうとした右近は、ふと気付いた。
(やけに大人しいな…)

あれだけ喧しかった女が急に静かになった事を訝しげに思い、右近はいのの顔を覗き込んだ。ぐったりとしているその様は諦めたのか、それとも。
変わった手の組み方をしたまま、無防備に肩を落とす彼女を怪訝に見遣っていた右近は、落ちてきた影に顔を上げた。

何時の間にか、すぐ傍で左近がこちらを見下ろしている。足首に巻き付いている金色の糸に眉を顰め、右近が声を掛けようとした瞬間。



「アンタが暗殺専門なら、私のはスパイ専門なのよね」
いきなり弟の口から放たれた女口調に、右近は眼を剥いた。


「は?左近、お前……」
「アンタのが身体に入り込む術なら、私のは…――」
何時に無く、真剣な眼差しで見下ろす左近の動向に、右近は眼を見開いた。
「まさか、お前…ッ」
「身体を乗っ取るっ!!」




【心転身】の術。
術者が自分の精神を敵に直接ぶつける事により、相手の精神を乗っ取る秘伝忍術。
しかしながらこの術は、放出した精神エネルギーが相手にぶつかり損ねて
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