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渦巻く滄海 紅き空 【上】
九十二 女の意地
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みに、左近がひゅうと口笛を吹いた。

「なかなか言うじゃねぇか。男の後ろに隠れてるだけの臆病者かと思ったぜ」
「おい左近、調子に乗るな。さっさと、さっきの奴を追うぞ」
嘲笑する左近を右近が咎める。寸前の喧嘩がまだ尾を引いているのか、左近の顔が歪んだ。

「兄貴は黙っててくれよ。先にこの女殺してからだろ」
「お前は時間を無駄にし過ぎなんだよ。ちんたらやってる暇はねぇぞ、左近」
やはりまだ、どこかギスギスしている双方の間柄を敏感に感じ取って、いのはじり、と後退した。
キバ達が登って行った崖からわざと遠ざかる。このまま自分を標的にしてくれれば良いのだが、いのにはどこかしら不安があった。

「さっき言ったじゃない。二兎を追う者は一兎をも得ずって。観念して私と闘いなさい」
今にも震えそうになる身体を叱咤して、虚勢を張る。うわべばかりの威勢に気づいたのか、完全に気が緩んでいる右近・左近。
油断している彼らに向かって、いのは素早くクナイを繰り出した。アカデミーにおいて、随一の手裏剣術を誇るくノ一とされてきた彼女のクナイは、しかしながら容易に叩き落とされる。

「…もういい、この女は俺が殺す。お前は先に行け、左近」
「あいよ、兄貴」
間髪容れずに投擲した手裏剣の嵐も、左近・右近の前では無駄に終わる。その上、何事か話し合った両者の身体が、文字通り二つに別れた。

「な…ッ!?」
「どうせ別れてやろうと思っていたところだ。これなら一石二鳥、…だろ?」

『二兎を追う者は一兎をも得ず』という一語に対抗し、わざとらしく告げてくる敵に、いのは二の句が継げなかった。
何故なら、二つの心を持つ一つの肉体が、本来在るべき二つの身体に分離したのだから。
「二人に別れた…!?」
「【双魔の攻】…俺らの血継限界だ」

互いの肉体を分離・結合させる術。一つの肉体を共有出来るという事は、別れる事も可能だという事。
術の説明をする左近と対峙していたいのはハッと我に返る。もう一人の姿が無い。
今さっき、自分を殺すと言っていた右近は何処へ…。


刹那、いのの身体の内から声がした。
「よぉ…誰、捜してんだ?」

視界の端。
自分の肩から生えている右近の顔が彼女をにたりと見つめていた。










「チャクラが流れる経絡系が内臓の各機関に深く絡み合っているのは知ってるな」

得意気に説明し始める右近の話を、いのは青褪めた顔で聞いていた。
「経絡系ってのは各機関を造り出している組織にも、そして組織を造り出している細胞にも、更に細胞の主成分であるたんぱく質にまで複雑多様に絡み合って連結している。俺はチャクラでこれらの細胞やたんぱく質の分解再構成が自由に出来る」

耳元で囁かれる敵の声。右近に促されてキ
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