第二百二十四話 帝との話その十五
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「成程と思うのじゃ」
「それが信長様の行われることですか」
「吉法師殿ご自身もじゃ」
「成程、では父上は」
「今はこのままな」
「馬揃えに出られますか」
「それだけじゃ」
家康は落ち着いていた、まさに山の様に動かない。そのうえで信康に確かな顔で話してそうしてなのだった。
ここでだ、家康は笑って信康にまた言った。
「しかし。馬揃えでもな」
「その時もですか」
「そうじゃ、我が家は都の者達に地味と言われるであろうな」
「どうしてもそうなりますな」
信康も笑って父に応える。
「当家は」
「うむ、我等は華美なものはない」
「それも全く」
「着飾ることは全くせぬ」
「具足も陣羽織も」
「古いものを仕立てて着る」
具足も服もそうしているのだ、陣羽織だけでなく。
「傾奇くこともない」
「徳川に傾奇者はいませぬし」
「彦左衛門等特にな」
「はい、堅物で」
「当家には質素な堅物ばかりじゃ」
笑ってだ、家康はまた言った。
「おそらく天下で一番貧乏臭い家じゃ」
「貧乏臭いですか」
「そう言ってもいいであろう」
「質素ではなく」
「三河におった時とそれは変わらぬ」
駿河の駿府に拠点を移した今もというのだ。
「全くな」
「やはり質素なままですな」
「そうじゃ、贅沢は徳川の中にはな」
「馴染みませんな」
「全くな」
こうも言うのだった。
「だから馬揃えでもじゃ」
「華美にはならずに」
「いつも通りいくぞ」
質素にというのだ。
「そうしようぞ」
「ですな、徳川家らしく」
「いつもの我等を見せようぞ」
「天下に」
「その徳川をな」
「では」
「しかし。御主もじゃな」
家康は笑って信康にこうも言った。
「質素じゃな」
「自分でもそう思っています」
「左様か」
「どうも。贅沢な服や飯は」
そうしたものはとだ、信康は家康に笑って話した。
「それがしも好きになれませぬ」
「馴染まぬな」
「どうも」
「わしもじゃ。確かに揚げたものは好きじゃ」
「魚や海老をですな」
「そうしたものは好きじゃ」
贅沢な料理であるこうしたものはというのだ。
「しかしじゃ」
「それでもですな」
「無理して食おうとは思わぬ」
「そういえば父上は雷が鳴りますとそうしたものを召し上がられませんな」
「どうも気になってな」
「げん担ぎですか」
「そうじゃ、それでな」
「雷が鳴りますと」
「食わぬ」
その大好きな揚げたものをというのだ。
「そうしておるのじゃ」
「そうなのですか」
「だからじゃ、他にも無理だというのならな」
「召し上がることもない」
「質素でよい」
信康に穏やかな顔で述べた。
「別にな」
「そうなりますな」
「そうじゃ、ではな」
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