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大正牡丹灯篭
8部分:第八章
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は藤次郎にも届いた。
「しかもだ」
「しかも」
「それを望んでさえいる」
「あの、それは」
「あくまで顔相での話だ」
 こう断るが。それでも不吉な言葉だったのは間違いない。少なくとも藤次郎の心からは離れることがない言葉であった。
「そうであるが。それにしても」
「私は。死にますか」
「では聞く。それが怖いか?」
「怖いか、ですか」
「死ぬことがだ」
 将校は藤次郎を見据えながら問う。それは彼に対して答えを強いるものであった。
「それは。どうなのだ」
「はい。それは」
 それを受けて答える。
「怖くはありません。むしろ」
「むしろ?」
「私は。悩んでいることがあります」
 麗華のことである。例え彼女がこの世の者でないとしてもだ。それでも恋慕う気持ちがそこにある、それは間違いのないことなのだ。彼もそれは否定できなかった。
「それが果たせぬならばやはり」
「死んでもいいのか、それで」
「そうですね」
 やはりその言葉に頷く。
「果たせぬのならば」
「思い詰めているな」
 将校はそこまで聞いて述べた。
「何処までも」
「その通りです。ですがそれも」
 考えが固まってきたのであった。だがもう一度将校に問うた。
「私は。その死を逃れることができますか」
「死をか」
「それは。どうなのでしょうか」
「正直に言おう」
 彼はそれを受けて述べた。本当に彼が見ているものをそのまま述べたのである。
「逃れれば逃れられる」
「そうですか」
「だが。その場合は望むものは得られない」
「決してですね」
「うむ」
 藤次郎に対して頷いたのだった。
「決してな。それはわかっただろうか」
「わかりました。ではやはり」
「死してもいいのなら手に入れるのだ」
 こう彼に告げた。

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