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大正牡丹灯篭
6部分:第六章
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るのです」
「ですな」
「しかしこれで安心できます」
 住職はまずは満足した顔を見せた。
「これだけ貼れば。あのお嬢様も寄っては来れますまい」
「感謝致します」
 社長は住職にあらためて礼を述べた。
「この男を失うわけにはいきませんからな」
「ふむ」
 住職は社長の言葉を聞いて藤次郎を見た。見れば彼から見てもかなりの男前である。彼も素直にそれを認めて言うのであった。
「これでは。死霊に惚れられても仕方ありませんな」
「そう思われますか」
「顔がいいのは悪いことではありません」
 俗世的な言葉であった。
「しかし。それが常によいとは限らないのが世の中の難しいところでして」
「今回のようにですか」
「世の中はわからないものでありましてな」
 住職はふと無常めいた言葉を出してきた。僧侶らしい言葉であり実に似合っていた。
「何が完全によくて何が完全に悪いかはありませぬ。そして」
「そして?」
「よいものが悪いものにもなってしまうのです」
「左様ですか」
 社長にもそれはわかった。彼は昔からこの住職と付き合いがありしかも仏教についても信仰が深い。だからこそわかることなのであった。
「この方にしろそうです」
「そうなりますか」
「ええ。あと気をつけるべきなのは」
 住職は考えながら述べる。そうしてまた言うのだった。
「あの屋敷に近付かぬことです」
「あの屋敷にはですか」
「左様です。近付けばここに札を貼った意味もなくなります」
 住職は社長の心に刻み込むようにして言う。これは本来は藤次郎に対するものであるが彼には刻まれなかった。彼の心には届かなかったのだ。

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