3部分:第三章
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社長と中西はそれをてっきり彼にいい人が出来たのだと思った。
「取り越し苦労だったようだな」
「そのようですね」
二人は社長室で能天気にそんな話をしていた。彼がある洋館に殆ど住み込んで美女と暮らしているということを既に知っていたのである。それでこうした話をしているのだった。
「相手はどうやら良家のお嬢様だそうです」
「それはなおいい」
社長は中西の言葉を聞いて頬を緩ませる。まるで我が子の結婚のように。
「言うことなしだ。そこまでとはな」
「どうやら地元の人だそうですが」
「そうか。地元の」
社長にとってこれもいいことであった。
「尚よしだ。それなら安心できる」
「全くです。何でもですね」
ここで中西はさらに言うのであった。
「いつも桜色の振袖に紅の袴のお嬢様だそうです」
「桜色に紅!?」
しかし。これを聞いた社長の顔が急に曇った。
「いつもその服なのか」
「そうらしいです。見た人の話では」
「そうなのか」
何故か社長の顔が剣呑なものになっていく。そうして右手を自分の顎に当てて深く考えだしたのであった。
「まさかとは思うが」
「どうかされたのですか、社長」
「まさかとは思うがな」
彼はそう前置きしたうえで中西に尋ねるのであった。
「そのお嬢様の名前はわかるかな」
「名前ですか」
「そうだ。聞いていないか」
何故か強い言葉で聞いてくるので中西の方も内心困惑した。だがそれでも社長の言葉なので頭の中で必死に探して思い出すのであった。
「確か。田村だったかと」
「田村か」
社長の顔色がいよいよ一変した。
「それで間違いないのだな」
「確か。しかしそれが何か」
「そんな筈はないのだが」
彼はまた言うのだった。深刻極まりない顔になっていた。
「何故ですか?」
「娘さんの下の名前も聞きたい」
今度はこう中西に問うた。
「念の為だ。それはわかるか」
「申し訳ありませんが今は」
中西は本当に申し訳なさそうな顔で社長に述べた。
「忘れてしまいました」
「そうか。いや」
だが社長は話をしているうちにふと考えをあらためて言うのだった。
「麗華といわないか。その人は」
「ああ、確か」
中西はそれを聞いて思い出した顔になり自分で自分に納得しだした。社長はそれを見ていよいよ深刻さだけでなく剣呑さもその顔に本格的なものにさせたのであった。
「そういう御名前でした」
「有り得ないな」
それが話を全て聞いた社長の言葉であった。
「それは絶対にな」
「?何故でしょうか」
中西は社長のその言葉を聞いて目をしばたかせた。
「有り得ないとは。またどうして」
「わしは田村家を知っている」
「おお、お知り合いでしたか」
中西はそれを聞いてすぐに能天気な顔になった。
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