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その財布を無くしたりしたらそれこそ完全に詰む。
人生が詰むのだ。
「ああ、これだね?」
ダンディーな店長は懐から見慣れた財布を取り出し、カウンターにソレが置かれた。
こころなしか、ほんのわずかに膨らみ具合が減ってるような気がする。
「食事と休憩料分は貰ってあるよ」
「あぅ…やっぱり、ですか……」
「はははっ、たとえ食い倒れても貰う物はきっちりと貰わないとね」
小銭の一枚や二枚を気にせずにはいられない性分から、財布を開いてみた。
…そこには記憶にある分よりも幾分か減っていた。
うん…わかっている……これは、ご飯の分と休憩した分が減ったのだ。
しかし…それがわかっていても自分の手で払ったわけじゃない金の分だけ生活の限界が目減りしたような気がして…すごく気が重かった。
「まぁ、そう落ち込まないでくれ。 ファーン領領主様からの口利きという事で、良心的な料金で差し引いておいたよ」
「あ、そうなんですか。 よかった〜」
それは予定通りではありながらも朗報である。
ただでさえ商売道具と言える装備を売り払っていて、そこそこの量の食糧を無駄にしてしまったのだから、出来る事なら出費は抑えたかった所である。
貧乏臭い話だけど、得な事はなるべく取っておいて損はない。
ん?
んん? でも、待てよ…。
「……あれ? 僕、いつの間に言ってましたっけ…領主様の名前」
記憶に無い事柄に、何となく疑問に思って口にした。
確か…自分は諸々な理由から、デトワーズ皇国に入った。
けれど、最初に踏み行ったのは王都ではなく、その隣のファーン領だった。
そこで連行されてエンリコ・ヴェルター・ファーン領主に出会った。
そして、だ…とても有り難い事に彼の名前を出せば宿でお得にしてもらえる、というのは覚えている。
お得なのは大事な事だから覚えている。
はて……食べてすぐに食い倒れた(らしい)僕は、いつファーン領領主の名前を出していただろうか?
言ってない……ような気がする。
これは一体どういう事だろう?
ダンディーな店主はこれに表情を崩さずに、抑揚なく答えた。
「まぁ、別にいいんじゃないか? そんな細かい事は」
「う〜ん…」
何とも引っ掛かるような気がして、しばし考え込む。
このダンディーな店長の言い分の他に何かあるか、と思ったけど特に何も浮かばなかった。
いつの間にか気を失って食い倒れたんだから、多分いつの間にか領主の名前を言って
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