暁 〜小説投稿サイト〜
暴れん坊な姫様と傭兵(肉盾)
05
[2/8]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
その財布を無くしたりしたらそれこそ完全に()む。

 人生が()むのだ。

「ああ、これだね?」

 ダンディーな店長は(ふところ)から見慣れた財布を取り出し、カウンターにソレが置かれた。
 こころなしか、ほんのわずかに(ふく)らみ具合が減ってるような気がする。

「食事と休憩料分は貰ってあるよ」
「あぅ…やっぱり、ですか……」
「はははっ、たとえ食い倒れても(もら)う物はきっちりと(もら)わないとね」

 小銭の一枚や二枚を気にせずにはいられない性分から、財布を開いてみた。

 …そこには記憶にある分よりも幾分(いくぶん)か減っていた。
 うん…わかっている……これは、ご飯の分と休憩した分が減ったのだ。
 しかし…それがわかっていても自分の手で払ったわけじゃない金の分だけ生活の限界が目減りしたような気がして…すごく気が重かった。

「まぁ、そう落ち込まないでくれ。 ファーン領領主様からの口利きという事で、良心的な料金で差し引いておいたよ」
「あ、そうなんですか。 よかった〜」

 それは予定通りではありながらも朗報(ろうほう)である。
 ただでさえ商売道具と言える装備を売り払っていて、そこそこの量の食糧(しょくりょう)を無駄にしてしまったのだから、出来る事なら出費は抑えたかった所である。
 貧乏臭い話だけど、(とく)な事はなるべく取っておいて損はない。


 ん?

 んん? でも、待てよ…。


「……あれ? 僕、いつの間に言ってましたっけ…領主様の名前」


 記憶に無い事柄(ことがら)に、何となく疑問に思って口にした。

 確か…自分は諸々(もろもろ)な理由から、デトワーズ皇国に入った。
 けれど、最初に踏み行ったのは王都ではなく、その隣のファーン領だった。
 そこで連行されてエンリコ・ヴェルター・ファーン領主に出会った。
 そして、だ…とても有り難い事に彼の名前を出せば宿でお(とく)にしてもらえる、というのは覚えている。

 お得なのは大事な事だから覚えている。


 はて……食べてすぐに食い倒れた(らしい)僕は、いつファーン領領主の名前を出していただろうか?

 言ってない……ような気がする。
 これは一体どういう事だろう?

 ダンディーな店主はこれに表情を崩さずに、抑揚(よくよう)なく答えた。

「まぁ、別にいいんじゃないか? そんな細かい事は」
「う〜ん…」

 何とも引っ掛かるような気がして、しばし考え込む。

 このダンディーな店長の言い分の他に何かあるか、と思ったけど特に何も浮かばなかった。

 いつの間にか気を失って食い倒れたんだから、多分いつの間にか領主の名前を言って
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ