2部分:第二章
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美女はそれに応えて穏やかに笑った。その笑みは気品と色気を併せ持つ、実に不思議でありかつ美しい笑みであった。
「それでは」
「何と仰るのですか?」
「田村麗華と申します」
美女はその笑みのまま名乗った。
「麗華さんですか」
「はい。それが私の名前です」
彼女は言う。
「父が。漢籍に強くてそうした名前を好んで」
「そうなのですか」
この時代にはない名前である。だから藤次郎はその名を聞いて少し不思議に思ったのだがこれで合点がいった。次は彼の番であった。
「それでですね」
「ええ」
またその美女麗華に対して言う。
「私の名前ですが」
「木村様ですね」
「えっ!?」
向こうから自分の名前を言われて思わず声をあげる。
「今何と」
「木村藤次郎様ですね。御存知です」
「そうだったのですか」
藤次郎は麗華が自分のことを知っていたのを知って目をしばたかせた。これは思いも寄らないことであった。
「以前よりお慕いしておりました」
そのうえ彼女からこう言ってきたのであった。
「昨日も気付いていましたが。女の私から声をかけるのははばかられますので」
「左様でしたか。それにしても」
前から自分を見ているということにまだ驚きを隠せないでいたのだ。その顔のままで彼女に対して述べる。
「私のことを御存知だったとは」
「はい。それでですが」
またしても彼女の方から言葉を述べてきた。
「今お時間はおありでしょうか」
「ええ」
藤次郎は彼女の言葉に頷いた。
「一人になりましたので」
「そうですか。それではですね」
麗華はそれを聞いてほっとした顔になった。そのうえでまた彼に言うのである。
「私の屋敷に。おいで下さいませんか」
「貴女のお屋敷にですか」
「そうです。無理にとは申し上げませんが」
だがこの言葉は。藤次郎にとってはあがらえないものであった。彼女はそれがわかっているのかいないのか妖しさと気品が同時にある笑みを彼に向けていた。その笑みを見るだけでもう彼はその申し出を拒むことができなくなってしまったのだった。
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