2部分:第二章
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第二章
「中西さんがですか」
「それは私の仕事ですよ。お忘れなく」
「はあ」
「そういうことだ。たまには羽根を休めるといい」
社長はあえて優しい声を彼にかけるのだった。
「わかったな。それで」
「わかりました。それでは」
「うむ。ではこれでな」
「また明日会社で」
こうして二人は藤次郎を一人にしてその場から消えた。一人になった藤次郎は暫くの間出店の菓子を食ったり酒を買って飲んだりして楽しんだ。だが暫く祭りの中を歩いているうちにふと一人の女と擦れ違ったのであった。
この時の流行の桃色の振袖に紅い袴、それに西洋風の黒い靴を履いている。髪は黒く奇麗なもので後ろに長く垂らしている。小柄であり白く細い顔には切れ長の美しい目と少し大きめの赤い唇がある。藤次郎は彼女を見てすぐに振り向くのであった。
「今の人は」
振り向いたその時には女はもう先へ行っていた。負い掛けようと思ったがそれができる藤次郎ではなかった。この時は振り向いただけで終わった。
その日はずっとその女のことを考えていた。次の日もである。仕事をしながら擦れ違った女のことを考えていた。仕事が終わると社長と中西がまた声をかけてきた。
「今日もいいか」
「祭りですか」
「そうだ」
社長はにこりと笑って答える。祭りは今日もあるのだ。
「また途中から一人で。どうだ」
「祭りに」
その女のことが頭にある。答えはもう決まっていた。
「わかりました」
「そうか。ならそれで行こう」
「はい」
こうして藤次郎はまら途中から一人でいることになった。一人になるとすぐにその場を見回した。見回す理由はもうはっきりとしていた。
「いるか!?」
あの美女を探していたのだ。いるかどうかすらわかっていないが彼はいささか冷静さを失っていた。これも彼にとっては滅多にないことであった。
見つかるという保証なぞ全くない。彼はそのことすら頭に入れてはいなかった。だがすぐに。その彼女を目の前に見たのであった。
昨日と同じ姿でそこにいた。見ればその手に燈篭を持っている。古風な燈篭であるが今の彼女の袴姿と妙に合っていた。それが不思議な程幻想的であった。
藤次郎は彼女の姿を見ただけで完全に目を奪われた。そのままの姿で呆然としていた。だがやがて。無意識のうちに彼女に声をかけていたのであった。
「あの」
「はい」
美女の方でも彼に応えてきた。
「何でしょうか」
「貴女のお名前を御聞きしたいのですが」
彼は自分では気付いていなかったがそれまでの彼にはない程の大胆な動きを見せていた。それで彼女に声をかけていたのである。
「宜しいでしょうか」
「私の名前ですか」
「宜しければです」
こう断るのは彼の謙虚さ故であった。
「貴女が宜しければ」
「わかりました」
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