11部分:第十一章
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第十一章
「愚かな奴だ」
社長は藤次郎を見てこう言うしかなかった。彼は赤いベストとネクタイのまま眠っている。まるで天国に行くような顔をしてそこに眠っていたのだった。
「何故。このような」
「これが。この方の望みだったのかも知れません」
住職は辛い顔でそう社長に言うのだった。
「だからこそこうして」
「死を選んだのですか」
「今更ですが」
住職はもうそれまでの破戒僧の顔はなかった。酒を楽しまず仏門を語る顔になっていた。その顔で社長に対して言うのであった。
「人によっては死は救いであるのです」
「それは聞いています」
これは社長も知っていた。だが今はそれを否定したかったのだ。
「しかし。それでも」
「この方を大事に思っていたのですね」
「素晴らしい男でした」
そう藤次郎を評して述べた。
「行く末が楽しみでしたが」
「しかし。それももう」
「はい。もう何もかもがこうなっては」
藤次郎はもういなくなってしまったのだ。社長もそれを受け入れるしかなかった。彼はただ悲嘆にくれるしかなかった。それがどうしてもいたたまれなかったのである。
「これは。望んでのことだったのでしょうね」
「ですな」
住職は藤次郎のその穏やかな笑顔を見て述べた。そうとしか見えなかった。
「この方もそれを」
「生きていてもか」
「生ある世界だけではありませぬ故」
住職はまたしても仏教的な世界を述べるのだった。それはかつて札を貼って藤次郎を守ろうとした彼とはかなり違う顔であった。
「ですから」
「それにもっと早く気付くべきだったか」
社長は苦い顔でそう呟いた。
「わしが」
「いえ、それでも同じことでした」
住職を落ち込む彼に対してそう述べた。彼の心を慰める為であったがそれ以上の意味もそこにはあった。そうして彼に語るのである。
「この方はこうなる運命だったのですから」
「運命か」
「御覧下さい」
そうして藤次郎の顔を見るように告げる。麗華の服を抱いた彼は穏やかな顔のままであった。そこには何の憂いもなかった。生きている時よりも。
「この顔を。どう思われますか」
「いい顔ですな」
社長は答える。
「何の憂いもなく」
「今この方はそうした心でおられるのです」
社長に対して言う。
「想い人と共になれて」
「この世でなくともですな」
「幸福はこの世だけにあるのではありませぬから」
それが彼の言いたいことであった。
「それでそれを選んだと」
「それだけです。しかし」
住職は悟っているようであったが。急に寂しい顔になった。自分でそれを消すこともできなかった。
「それでも。悲しいものは悲しいですな」
「はい。木村」
社長は彼の言葉を受けて。藤次郎に声をかけるのだった。
「あの世
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