1部分:第一章
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次郎の結婚相手を探す話をはじめた。
「もういい歳だしな」
「結婚は早ければ早い程いいのです」
これは中西の考えであった。社長も同じである。というよりは中西が社長に合わせたのであるが。どちらにしろ二人の考えは同じであった。
「ですから」
「探しておくか」
「はい」
「それでだ」
社長はここまで話をしたところで話題を変えてきた。
「もうそろそろだな」
「祭りですか」
「ああ。もうすぐだな」
社長の目が細くなる。彼は祭りが好きなのだ。
「今年も賑やかにいきたいな」
「はい」
そんな話をしていた。そうして祭りの時になった。二人はその夜その藤次郎を連れて夜の横須賀を歩いていた。
夜の街に海軍の白い軍服があちこちに見える。それと共に着飾った女達が見える。
出店には子供達が群がり老いも若きも楽しい顔をしている。それを見て社長達もにこやかな顔になっていた。
「木村」
社長はその中で自分の後ろにいる藤次郎に声をかけた。
「どうだ、いい祭りだろう」
「そうですね」
藤次郎もその言葉に頷く。素直な言葉であった。
「横須賀で一番賑やかになる時だ」
「そのようですね」
彼もここに来て暫く経っている。だからそれは知るようになっていたのだ。
「君は祭りは好きか」
「嫌いではありません」
社長にこう答えた。
「この雰囲気がいいのだな」
「子供の頃から。何もかもが好きでした」
彼は社長に対して述べる。
「出店も。そこを行き来する人達も」
「そうか。好きなのだな」
「ええ。とても」
社長は後ろから聞こえてくる藤次郎の明るい声に満足を覚えていた。連れて来た介があったと思った。そこで目の前に若い海軍将校が美しい女と並んで歩いているのが目に入った。彼はそれを見て少し気を利かせてやろうと思った。
「なあ」
「何でしょうか」
「わし等はこれから少し行くところがある」
「では御供します」
「いやいや、それには及ばない」
秘書に目配せをしながら藤次郎に言う。
「仕事でも何でもないのだしな」
「左様ですか」
「それでだ」
そう話したうえでまた彼に告げる。
「暫くここで楽しむといい」
「祭りをですか」
「そうだ。好きにすればいい」
こう彼に言うのだった。
「出店に入るなり酒を飲みに行くなりな。どうだ?」
「それで宜しいのですか?」
藤次郎は律儀に彼に問うのだった。この律儀さもまた彼が藤次郎を好むところであった。
「社長の御供をせずとも」
「御供なら私が」
ここで中西がにこやかに彼に述べるのであった。
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