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短編集
まっしろ男とまっくろ女
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体勢を崩した彼女の後ろを、列車が駆け抜けていった。

                ◇

「旦那様、お食事が出来ました」
 夢から、少女の声で起こされる。懐かしい夢を見ていた。
「今食べるよ。毎日ありがとう」
 寝ぼけ眼を擦りながら、私の部屋から去りゆく彼女に礼を投げる。彼女は礼には及びませんと私に返して、私の部屋の襖を閉めた。そうしてそれと同時に、じりりと目覚まし時計が鳴る。この音がするという事は時刻はもう八時になったのだろう。少し、寝過ぎたか。私はすぐに朝食へと向かった。
 自殺しようとした少女を匿ってから早八ヶ月。あれから彼女に一度もその理由を尋ねた事はないし、彼女もまた私に話すことはなかった。ただ、帰る場所を尋ねた私に対して彼女はそんなものはないと応えた。なら泊まっていくと良い、何て半ば冗談で言うたのだが、少女は真に受け家政婦として働かせてくれなんて言い出した。結局それを了承してしまった私は今でもこうして、件の彼女と二人でアパートで暮らしている。

「膳を下げに参りました」
 布団に腰掛けて窓の外を眺めていた際に、彼女は現れた。私は白い景色へ視線を向けたまま、彼女に言葉をかける。
「美味しかったよ。ありがとう」
「ありがとうございます。ですが住まう家と賃金さえ頂いているのです。より旦那様に気に入って頂ける食事を作れるよう精進致します」
 生真面目にそう応えてすぐ、食器の音がした。盆を持ち上げたのだろう。
「そういえば、旦那様」
 なんだい、そう答えながら私は顔を床へと向けた。
「……いえ、何でもありません」
 そう言って食器が僅かに揺れる音を立てながら彼女は去っていく。彼女が言いたいことは、なんとなく分かる。こんな奇妙な同棲をはじめて、ついひと月前までは共に食事を摂っていたのだ。急に私が一人で食べると言ってから、彼女と顔を合わせる機会は激減した。その以前から私は自身の部屋の掃除を自分ですると言って彼女を立ち入らせず、金は蓄えがあるから気にしなくてもいいという事もあり、自身の部屋から出ることが殆どなくなった。そんな私を心配でもしているのだろう。
 けど、それで良い。今更外へ出てもどうしようもない。この生活が続く限り私はこれを続けていこう。

 その日の夜の事。膳を運んできた彼女は、すぐには私の部屋を去らなかった。私は朝のように視線を窓へと向けながら、彼女が口を開くことを待った。
「旦那様。ご迷惑でなければ共に食事を摂っても宜しいですか?」
「駄目だ」
 そう、少し強く彼女に言う。この生活を続ける上で、それだけは守らなければならないことだ。
「すいません、出すぎた真似を。では、私はこれで失礼します」
 そんな彼女のしょぼくれた声を聞いて、私はやっと、彼女が寂しかったのだとわかった。だから、私は問う事し
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