月下に咲く薔薇 4.
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で、ミシェルが「いや、大した事じゃない。…ありがとう、ロックオン」と強く目を瞑りながら琉菜と隻眼のスナイパーの両方にそっと右手を挙げた。
ミシェルの眼前で眼鏡が光る。口端の下がった表情を隠す縁の無い眼鏡が。
「珍しいな、ミシェルにしては」おどけた口調のデュオが、立ち会っていた者達全員の感想を意図的に伝えた。「折角楽しい企画が始まるんだ。こっちは当てにしてるんだぜ、あんたのいつもの冷静さを。スマイルスマイル! だろ?」
殊更「いつもの」という響きを強調するデュオの言葉選びが上手い。それは、皆がミシェルに伝えたい事を柔らかく、しかし余すところなく含ませていた。
ふぅと息をついたミシェルが微かに呟く。
「何てこった…。そのバラは魔性だな。貴婦人のように男の前に立って、人外の力で有無を言わさず跪かせる力を持ってる」
本人はいたって真面目な畏怖を語っているつもりなのだろうが、途端にあちこちで男女が一斉に吹き出した。
「そりゃ人外でしょ。花なんだから」谷川が笑い飛ばせば、腰に手を当てロックオンも「随分と大袈裟だな」と色男の苦しい言い訳として受け取る。
「そうそう。世はバレンタイン・シーズン真っ盛り。刺激的な贈り物に男として舞い上がっちまう気持ちもわからなくなはいが、折角隣に可憐な花が咲いてるんだ。あんまりよそ見してたら、横からかっさわれちまうぞ」
デュオがクランを立てつつ、未だいつもの彼らしくないミシェルを脅した。
「これは表現を間違えたか」一拍置いて、座ったままのミシェルが少々渋い顔をする。「いや…、言い訳はやめておこう。琉菜。そのコーヒー、暖かいうちに貰っていいかな」
巧みに切り替えるミシェルに、何かやらかしたなという目つきをした琉菜が近づいた。そして、「はい。ブラック、あったわよ」と紙コップ入りのコーヒーをミシェルの前にそっと置く。
「ありがとう」
いつもの冷静な口調に戻ったその様子を見、クロウ達も一様に安堵した。中でも、子供のように顔面を崩壊させながら再び着席するクランの心中は察して余りあるものがある。
「はい。クランにはレモネード。『今日の1割増量対象品』になってたから、ちょっと多めよ」
「ありがとう、琉菜!」
柑橘系の香りを上げる暖かな飲み物で暖を取るクランに、「良かったな」とミシェルが目を細めた。
「で、ロックオンとデュオがコーヒーのミルク・砂糖入り。クロウがただの水、と」
エイジが順に飲み物を渡して回り、「これは、谷川さんと中原さんに」と言ってバナナの香りがするココアを2つ置いた。
「あら、気を遣わせちゃったわね」
谷川が資料を配り終えてからカップを取り上げる。
「ありがとう」
会釈した中原も、一仕事終えてから、湯気の立つ暖かな飲み物で人心地ついた。
クロウは水の入ったコップを取るや、
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