彼女達の結末
二 衝動
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う。血が降り注ぐ。弾け飛んだ赤色の肉片、水滴は、灰色の世界に色を挿して。
また。私と彼女の間に立つ、その巨体を。私の撃ち貫いた巨体を。黒い蛇、煌いた刃。音、音、音の濁流と共に食らい、切り裂き、崩し、壊し、そして、踏み越え。
彼女が、来る。黒い髪。光を受けて輝いた瞳。両手の爪に、獣足、尾。私の。最も大切なひとが。
「……リティ」
マトが。死肉を掻き分け、悪意を散らし。彼女が、私の前に立って。
「マト……」
頬が綻ぶ。互い、互いに血塗れで。酷い有様。けど。
沈む直前の夕日。対峙した死肉が動きを止めた後の静けさ。私と彼女だけの世界。穏やかささえ感じる程の。
「マト」
私は。巨体を踏み越え、目の前に立つ彼女。血に染まっても尚黒い。彼女の姿、姿へと。
「マト。私は」
「私は」
声を、投げる。私へと。彼女は、言葉を断ち切り。彼女の言葉を、投げかけて。
「私は……きっと。生きてた頃も。今の……アンデッドとしての、この姿と。同じ、姿をしていたみたい」
紡ごうとしていた。言葉を、飲み込む。彼女の姿は逆光。黒塗りの姿。瞳が輝き。輝く、形は。
酷く不安そうな。酷く、悲しそうな。そんな、目で。私の目を。真っ直ぐに見つめ返していて。それでも。
「全部、話す。聞いて、いてほしい」
私の願いを聞き届け。口を、開いて。
「……培養槽の中で生まれたんだ。水槽の中で生きていたんだ。実験室の外……壊れる前のこの世界なんて、元から知らなかった」
言葉を聞く。彼女の過去を聞く。知る。私の思い出せていない、彼女の過去を。
「私は、人間なんて、ものじゃなかった。生きていた頃から、私は。只の、兵器だった。アンデッドだった。それより前の記憶なんて、無い。大好きだって、言ってくれたよね。でも、リティは昔、そんな私を、憐れむように見ていたよ。ねえ」
――リティは、今も、と。
言葉を。今度は、私が。私が、断ち切る。銃を放り。真っ赤な血と灰色の肉の絨毯を踏み。駆け。
彼女の体を。勢いもそのままに抱き締める。抱きしめるだけではない。だけでは、駄目なのだ。
伝えなければならない。私の思いは。今の思いは。過去の私が抱いた憐れみでは……過去の私が抱いたそれではないのだと。
目を瞑る。降ろした目蓋が溜まった涙を押し流し、私の頬に線を引く。引いた涙のその線に、冷たい風が当たり撫ぜ。
「リ――」
口を付ける。僅かに首を傾けて。首を、頬を、出来る限り、優しく。けれど、衝動に駆られるまま強く抱き。彼女の唇へと、自分のそれを押し当てる。
その唇は。只々、柔らかく。そして、酷く冷たくて。
閉じた目蓋の向こうで彼女は、
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