彼女達の結末
二 衝動
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界なのに。
震えが。震えが、止まらない。迫り来る巨体への恐怖か。自分が壊されることへの恐怖か。彼女が壊されることへの恐怖か。壊すことへの恐怖か。
それさえも分からない。只、只、体に走る震え、胸の奥に突き立つ痛み。構えようとする銃身は私の体と同じく揺らぎ。強張った体、狙いをつけることさえ儘ならず。このまま、引き金を引いたところで――
「――マト……」
唐突に、湧き上がる思いは。目の前のそれから目を逸らすように満ちた思いは。この、恐怖に塗れた世界、振り上げられた巨腕、一瞬の後に起こるであろう惨劇。それを、予期しても、尚。浮かび上がる彼女の顔、声、姿、動作、笑み、温もり、心臓の鼓動。彼女に触れたい。彼女と触れ合いたいと。
彼女の元へと駆けつけたい。彼女の視界の中に在りたい。彼女の傍らに在り続けたい。自分と彼女を引き裂かんとする悪意に対する恐怖を前に。湧き上がり波打ったマトに対する過剰なまでの感情。恐怖に塗り潰されそうな私の心を浸し侵し包み込んだそれは、正気のそれとは異なった。
狂気のそれ。只、只、彼女に対する思いだけに塗り潰されたこの心は、心地良いと感じるほどに甘い思いに満ち満ちて。今なら。
今なら。恐怖を忘れて。震えることさえ忘れて。転がされた賽の出目を変えるように。書き連ねられた物語、望まないシナリオを書き換えるように。在らぬ方向を向いた銃口を巨人の肩へと引き戻し、引き金。乗せた指を、激しく昂ぶる胸の内とは裏腹に、静かに。一片の躊躇さえなく強く引いて。
千切れ落ちる巨大な腕。肩、胸、抉り、穿ち。バランスを崩し、残る片腕を地に着いた巨影と、粉塵。舞い上がる中で。
彼女へと。左耳の装置を起動し、私の声を指向性を持ったそれへと変換する。向けるのは、今も、粉塵の向こう、死肉の向こうで戦う、彼女で。
「ねえ、マト。私の声、聞こえてる?」
返事は無く。聞こえるのは切り裂く音、潰す音。砕く音、引き千切る音。私の投げ掛ける声は、一方的に語りかけるだけのそれ。対話と言えるのかも怪しい。私が、只。思いを伝えるためだけの。
「マト。マト。この戦いが終わったら、昔のあなたについて、聞かせて。私も、全部話すから……ねえ、マト。どんな過去であっても構わない。私は、あなたのことを、もっと深く知りたいの。出来る限りを共有したい。だって、私は――」
迫る。巨大な手の平。棘となって反り立つ無数の金属片、スパイクを備えた、歪な腕。
「――私は。あなたのことが、大好きなんだから」
子供っぽい言葉。自分でも嗤ってしまうほど拙く。けれど、心からの言葉を紡ぎ。紡ぐと共に、肉が爆ぜる。言葉と共に向けた銃口、死を齎す巨大なその手に小さな死の手を以って対峙し、その中央を打ち抜いて。
肉が舞
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