彼女達の結末
二 衝動
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リティの姿が有る。アリスの姿も有る。朧に掠れ映し出された幾つもの断片、その一端に映りこんだ、私と共に目覚めた姿と、そう、変わらず。けれど。
私の記憶に有るその脚は。違う。元の私の足じゃない。これじゃない、違う、違う、違う。
培養槽の中で浮かんだ。私の本当の姿は――
「違う、違う、違う、これじゃない、これじゃない!」
走ることは疎か、立っていることさえ出来ず。彼女の体を抱き抱えたまま、その場に倒れ伏し。舞い上がる埃、体の重みを全て、地面に預けて。それでも。
頭の痛みが。胸の痛みが止まない。体の中に巣食う蟲、肉蛇達がもがき蠢き、私の皮膚の下、肉の下を這い回り。いや。
脚が。私の足が。そうで、あるならば。この、蟲も。肉蛇も。また、記憶の中のその時には、既に、既に……
「――ト、――マト! どうしたの、マト、マト……!」
私の手から抜け出した彼女が私へとむけて呼びかける。そんな声を聞きながらも、体の中の熱が失われていくのを感じて。頭を割り、中を掻き回すような痛みは、まだ止まず。けれど、胸のうちに。溢れて渦を巻いた熱は、何処か。抜け落ちるように失せていって。
「……リティ」
血塗れの腕。知らず知らずの内に抱きしめた自身、抱えると共に傷つけた頭部、僅かに埋まっていたらしい爪、けれど。傷はもう無くて。あるのは纏わり付いた赤だけ。再生する体、異形、変異。自分が、何処までも怪物であること。
それを。それを、理解して。
「リティ……リティは、憶えてる? あの病院で目覚める前の……こう、なる前の。私のこと」
彼女は。私の言葉に。彼女は、疑問を浮かべるばかりで。言葉を紡ぐことは。彼女のその、綺麗な声、綺麗な声で。
紡ぐことは。無くて。
「……ごめん。もう……大丈夫」
地に。手のひらを着く。
「待って、マト、どうしたの……全然、大丈夫になんか……」
埃塗れの体を起こし、頭を振る。流れた血、粘菌が、髪を伝ってはたはたと飛ぶ。地面や瓦礫に、赤く小さな染みを付ける。
私は。自分のいた場所を思い出してしまった。私は。自分がどうやって生まれたのかを思い出してしまった。
思い描いていた大切な記憶、人間としての、少女としての。そんな、明るい思い出なんてものは。私は、初めから。何一つとして持っていなかったのだと。大切な人との過去は、硝子一枚のそれよりもずっと遠く隔たれた……憐れみの対象。見下ろされるだけ、触れ合うことなどない関係で。
「……倒さないと」
迫り来る巨人へと目をやる。それは、もう、すぐ其処。その、怪物の腕がいつ、振り上げられ、振り下ろされるかも知れず。三体の巨人。人工的に映し出された夕暮れの空に三つの影。ゆらゆらと揺れ
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