月下に咲く薔薇 3.
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られた思いの大きさを悟ったロックオンが、「おいおい…」と乾いた笑顔を作った。レクリエーションの域を越え、件の企画はヒイロの言う通り隊の雰囲気を左右する立派なミッションと化している。
「もし手伝える事があるなら、あたい達も当てにしていいから!」
小さなチルの言葉だが、それは居合わせた聴衆全員の気持ちでもあった。
白く長い体でそっとクロウ達の足下にやって来るリンクス達も、四つ足特有の円らな瞳で靴の高さから見上げている。まるで、何かを訴えるつもりで。
無理に納得して引き受けた依頼だが、流石にこれはやる気が増す。
「じゃあ9時と言わず、今から手伝いに行くか」
コーヒーを煽って立ち上がるロックオンに、クロウ以下、デュオ、琉菜、エイジの手伝い組全員が了承した。
連れだって食堂を後にすると、背後から2人分の靴音がする。
「もしかして、その顔ぶれなら行く先は第4会議室かな?」
クロウは、やはりと思った。声の主が、先程想像した助っ人メンバーの顔と合致する。
振り返れば、そこには当然の如くSMSのミシェルがいた。
もう1人は言うまでもなくクラン大尉で、その小さな体型で皆の視界から外れまいと腰に手を当て視界の中でより多くの面積を占有している。
女性達が助力を求めていると聞けば、この少年が乗り出さない訳はない。
「私達も、そこに行くのだ。企画の手伝いとやらをする為にな」
右手で何がしかを弄びながら、クランがクロウ達の顔をじろりと見比べてゆく。
クランの仕草が、皆の視線を自分の手元へと誘導していた。「これを見ろ」と言わんばかりに。
時として、無言のメッセージは言葉以上の重要度を持つ。
「バラ、か? 随分と派手な赤だな」
クランの心情を汲み取ってやり、ロックオンが敢えて彼女の手元を新しい話題に選んだ。
彼女がそっと摘んでいるのは、一輪の赤いバラの花だった。棘がついたまま花の下に20センチ程の茎を残している。葉も分かれた枝に5枚付いており、生き生きとした濃い緑は主張の強い花の赤をより一層際立たせていた。
派手。正にそういう表現が相応しい程、大輪のバラはクロウのような素人が見てもわかる程花の形が良く高貴な印象さえ漂わせていた。おそらくはクランがちらつかせずとも、その完璧な花の見目だけでいずれは話が今と同じものへと傾いたろう。
東洋にはシャクヤクという更に大輪の艶やかな花があるが、こうして開花の形を誇示するバラを前にすると、決してシャクヤクに劣ってはいないと赤花の肩を持ちたくなる。
さては、ミシェルからの贈り物なのか。
「似合ってるぜ、クラン」
同じ事を考えたらしいエイジが、目尻を下げつつクランとバラの組み合わせを褒めた。
ところが、照れるどころか、何故かクランは怒りと共に激しく頭頂から湯気を立てる。
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