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ソードアート・オンライン‐黒の幻影‐
第2章 夜霧のラプソディ  2022/11
19話 世界の裁定
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…でも、違うんです。だって、思い出してしまいましたから」
「………何を、思い出した?」


 聞いてはいけないと、これ以上知ってはいけないという脳の警告を振り切り、ティルネルに問う。
 聞きたくなんてない。聞いてしまえば、もう後戻りが出来なくなってしまうから。それでも、彼女の言葉を聞かなければ、きっと後悔する。もう逡巡はしないよう、後付けの思考を振り払う。


「先程の狼に飛び掛かられた光景、私はそれとよく似た記憶を二つ思い出したんです。一つは黒エルフの支援部隊が襲撃された時、もう一つは夢で見た記憶の続き、その最後の一瞬………そのどれも、《私達》はその時に死んでいるんです。剣を扱えたのだって、彼女の記憶に従っていただけです」
「わたし、たち?」
「ええ、今の私には自分という固定されたものが感じられないんです。とってもあやふやな、2人の意識が混在しているような、何とも言いようのない心地なんですけど………少なくとも、《ティルネルとしての私》はもうすぐ消えます。恐らくは、私の中に居る《プレイヤーの女の子》も一緒に………」
「消えるって………お前、そんな………」


 冗談だと言って欲しかったが、そう思えない。勘でのみの思考は、それでいて侮れない成果をこれまでも挙げ続けている。ティルネルという存在自体がバグであるための修正処置か、それともHPを失ってなおティルネルの中でSAOに在り続けるプレイヤーへの制裁処置か、ティルネルの消去というのは考え得る事態なのだ。しかし、これではあまりにも残酷過ぎる。俺だって、ようやくティルネルをNPCやモンスターではなく仲間として思えるようになったのだ。まだ終わってほしくない。


「………時間、ですかね?」


 ぽつりと呟いたティルネルは、これまで倒してきたモンスターやフロアボス、或いは、はじまりの街で故もなく死んだプレイヤーやディアベルの今際の際を飾った青い輝きに包まれた。この世界における死の象徴たる冷色は恐いほど鮮やかに黒エルフを彩った。


「呑気な事言ってんじゃねえ! お前、悔しくないのか!? せっかく生き繋いだのに、こんな理不尽に消されて、悔しくねぇのか!?」
「仕方ないじゃないですか! ………私だって、せっかく皆さんと知り合えて、お友達になれて、それなのにまた………悔しくないわけ、ないじゃないですか! ………この子だって、最期にもう一度………仲間の皆に会いたがっていたのに………」


 仕方ない。ティルネルの言葉は正鵠を射ているだろう。
 確かに遣り様がない。しかし、それをただ受け入れてしまえば俺はこの世界に屈してしまう事になる。それに、ティルネルの中にいるというプレイヤーさえも………

――――いや、プレイヤーがいるのだ。《リアルと異なる姿》で………



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