暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアート・オンライン‐黒の幻影‐
第2章 夜霧のラプソディ  2022/11
19話 世界の裁定
[5/7]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
ルまで操ってロアリング・ウルフを撃退した。しかし、どうしてそのような真似が可能なのか。彼女は間違いなく弓持ちのエルフだ。モンスターである事を示すレッドのカーソルは見紛いようもない。既に設定されたパラメータを覆して本来ならば使用すること自体在り得ない武器を操るなど、システムによって事象を支配されたアインクラッドにおいて斯様な奇跡など起こり得るものなのか。


「この剣と盾は捨てません。これは、大切なものですから」
「………分かった。その代わり、戦えるなら頼りにさせてもらう」


 しかし、決して害を為すものではない事は分かる。盾を背負いなおしたティルネルはアニールブレードを構え、ヒヨリがするような仕草で頷いて見せた。それを合図に、森を駆け抜ける。斬り、突き、薙ぎ払い、倒したモンスターの数さえ分からなくなり、やがてその群れから脱してもなお駆け続け、ついに花畑に辿り着く。
 緊張の糸が切れたのか、ティルネルはふらついた足取りで花畑の中心まで足を運び、盾を降ろすとこちらに気兼ねすることなく仰向けに寝転がる。
 既に夕刻に掛かる時間帯だろう。陽光は第三層の外縁に阻まれて、僅かな斜陽だけが天蓋にオレンジを差している。時間帯によって発光エフェクトを作動させる花畑も淡い輝きを放ち始め、先の戦闘の激動とはまるで対を為すような、幻想的な光景に辺りが一変した。実を言うと、この時間帯のこの花畑には完全に獣や虫のようなモンスターが進入できないシステム的仕様があり、冗談抜きで《安全地帯》となるのである。


「はぁー………何だか途方もなく長かったような、あっという間だったような………」
「あの場にかち合ったのは災難だったな。でも、助かったよ。ありがとな」
「いいえ、お役に立てたなら幸いです………それと、リンさんにはお話ししなければいけない事があります。聞いて頂けますか?」


 ティルネルは居住まいを正して座り直し、神妙な、それでいてどこか寂しそうな面持ちで見つめてくる。少しバツが悪いものの、俺も腰を下ろして向かい合う。相手が真剣に話そうとするなら、それ相応に聞く姿勢は用意するつもりだ。


「私は、ティルネルという黒エルフは、既にこの浮遊城では死んでいるんです」
「………それは………冗談だろ? ………だって、お前は確かに存在してるんだ。今ここに居て、さっきだって俺を助けてくれたじゃないか?」


 言い知れない悪寒が背筋を貫き、胃に鉛が入ったような気持ち悪さに襲われる。
 根拠はない。しかし、情報や理性で統括されていない脳の領域では、既に何かを恐れているのがありありと感じられた。


「ええ、私は確かにここにいます。リンさんに助けて頂いて、ヒヨリさんやアルゴさんともお友達になれて、今も共に窮地を脱して、確かに私はここにいます……
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ