第2章 夜霧のラプソディ 2022/11
19話 世界の裁定
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背後から何かが這いずるような音が耳に入った。
「………お前、どこに行こうとしてるんだ?」
「渓谷ですよぉ?」
ふと振り向くと、ピニオラが渓谷の際の崖縁まで移動していた。
よろめきながらも、傍に生える樹を手摺にして立ち上がり、どこか不敵な笑みを浮かべている。
「解ってるのか? そこに落ちたって助からない。むしろ自殺と変わらないぞ?」
「でもぉ、わたしだって貴女達と心中する気はないですものぉ」
「だからって独りで死ぬのか?」
「あ、今の台詞カッコ良かったですよぉ〜。では、最後にご褒美ですぅ。いっつしょ〜たいむですよ〜」
「待ッ………!」
言い終え、手に抱えていた無数の石ころを周囲にばら撒き、ピニオラはそのまま後ろに倒れるように渓谷に落ちていった。こちらに動く隙も与えず、やりたい事だけやって、いなくなった。恐らくは逃走の手立てくらい考えていたのだろうが、ダメ押しで更にモンスターを引き寄せる始末だ。厄介な事この上ない。
「今のでこちらに押し寄せる魔物の数が増えたみたいです。このままだと………」
「まだモンスターの密度は薄いだろうから、ここに集結される前に突破する。この前の花畑まで動くぞ!」
「はい!」
ティルネルの報告を受け、一先ずはピニオラの事を頭から排除する。
あのPKテクは《意識攪乱》が効果を及ぼす範囲すべてが危険域となる。石ころの着弾地点は言わずもがなモンスターの物量や火力で圧殺されるが、その周辺もモンスターの密度は通常よりも増す。つまり、今出来る事と言えば同じ場所に留まらず、安全地帯へと離脱することが急務となる。
《片手剣》によるソードスキルも、無暗に孤立する要因となる突進技を使う事も出来ず、そうなると使用可能なスキルの総数が限られてくる。いざとなれば冷却時間も短い体術で応戦するが、やはり火力が足りない。そもそもヒヨリがダメージディーラーであるため、俺はサポート寄りになりがちだ。しかし、その欠落を補ってくれるのがティルネルの《弓術》スキルだ。急所へのピンポイントな狙撃によってクリティカルを連発する黒エルフの薬師さんが破竹の勢いでモンスターの無秩序な布陣を破ってくれる。戦線を維持する上でも、頼もしい事この上ない。
「………不思議な夢を見ました」
「夢?」
ショートボウの弦を引き絞り、ティルネルがポツリと言葉を零した。何かしらのイベントが進行した可能性が頭を過ったが、彼女に至っては通常のNPCが齎すイベントクエストと混同して考えるにはイレギュラーが多すぎる。話は聞くにせよ、もう真っ当なクエストとしての認識は捨てるべきだ。それだけ、彼女はシステム的な存在からかけ離れている。一つの自我と言って差し支えないだろう。既に
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