第六話:嵐の前の、長い静寂
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ソレを隠すために、前髪を伸ばし続けている。
「ゴメンゴメン、つい気にしてる事忘れちゃうんだよなー」
「忘れないでくださいよ! ……ってあ! 兄ちゃんだぁ!」
「……チッ」
コッソリ傍を通り抜けようとしたが、目敏く気付かれ指差される。
その声は迷惑だと思えるな程デカく、此処に居る四人だけでなく歩行者の視線まで集めてしまった。
……コイツは何時も大なり小なり、何かしら迷惑やトラブルを引き起こさねば、気がすまない質なのか。
「あ、麟斗さん……えっと、こんにちは」
「おう」
「兄ちゃん兄ちゃん? 妹へお帰りなさいのチュばっ!?」
無言で阿呆を殴り飛ばす。
お帰りなさいも何もまだ家へは帰っていないし、こんな道端で恥辱を味あわせようとする奴相手に、容赦する気など毛頭無い。
もし酷いと思った人は、この馬鹿げた行為を四六時中のしていると言えば、どれだけウザったいか分かるだろうか。
実の妹からチューやら何やら受けたくは無い。というよりも……こいつの行為は行き過ぎていて、単純に気色悪い。
「む〜う、なによぉ? そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃなぁい?」
「……衝撃が足りなかったか……」
「すいません勘弁してください本当に頭クラクラしてますから止めてくださいお願いします」
美しいとまで形容しても良い、見事なまでのジャンピング土下座を、楓子は即行で決めてきた。溜飲が下がった訳でもないし、腹が立つのは何時もの事。
……だが、皆慣れているとはいえ公共の場でこれ以上は良く無かろうと、背を向けて帰路へ着く。
「あ、ちょっとまってよ兄ちゃん! ゴメン! また今度、電話してね舞子ちゃん! それじゃっ」
「うん、じゃあね楓子」
「またなー、楓子ちゃーん」
後ろ手別れのあいさつを済ませる声が聞こえてから数秒後、楓子が走り寄り俺の隣にならんできた。
さり気に腕を組もうとしてきたのを、肩への肘打ちで阻害する。
「あだっ!? ちょ、ひどっ……てか兄ちゃんが全然デレてくれない〜!」
「……」
「何時も何時もアピールしてるし、デレ度メーターが少しは上がってると思うのにぃ」
「……」
コイツは見た目だけなら美少女だ。寸胴体系ではあるが、脚は長くスラリとしていて腰の位置が高い。
だが……中二病気味な上、それだけならまだしも兄貴と似たり寄ったりな妄想癖があり、更には現実とフィクションをごちゃ混ぜにしたり、言語は “日本語” の筈なのに、会話内容が意味不明になったりもする。
早い話が 『残念な美少女』 の良い一例である。
通訳が必要な日本語を話す者など、コイツを置いて他に例が無かろ
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