第六話:嵐の前の、長い静寂
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め、今更聞く必要はない―――――否、そもそも聞く気もない。
理子と彼女の妹である舞子の親はファッション関係の仕事をしており(詳細は知らん)、しかもそこのお偉いさんな為に、ここにはおらず東京での本社勤務。
彼女等の家には雇われた使用人―――もっと簡単に言って《お手伝いさん》に近い人が居り、その人らが世話をしている。
そして、この夏休みを利用して東京へ行き、観光がてら両親へあってくる予定なのだとか。
……俺には心底どうでもいいことだ。
「そういやー暫くあってねーけど、デコちゃん元気にしてるかー?」
「口に出す事じゃねぇ」
「って事は、元気なんだなーデコちゃん」
デコちゃんとは楓子のあだ名であり、理子はこの名でよく呼んでいる。
寧ろあいつが元気では無い時を見たいぐらいだ。一番最後に風を引いたのは、確か小1の頃だった筈。
そこから先はまるで覚えが無い。ただ単に、まず覚える事でもないので、俺が忘れているだけかもしれない……。
だが、思い出す事でもない。
幾歩も歩みを進める内に俺達は、山本家自宅がうっすらと見える場所まで来た。
よく見てみると家の前には、今帰宅したらしき舞子と、矢鱈テンションの高い様子の楓子がいる。
距離の事もある為当然俺達には気が付いていないらしく、会話自体は聞こえずとも喋っている事は分かるほどの、此方にまで聞こえる大音量で何やら談義に花を咲かせている。
大方ラノベかアニメ、もしくは宿題か山本家の旅行か何かの話だろう。もし勉強の事だったとしても、肯定的ではなく接受するでもなく、意味もない否定をしているに違いない。
近付いて行くにつれ、段々と会話内容を聞き取れるようになってきた。
「……っぱそうだよねー、宿題なんてあるだけ無駄って言うかさ、別に遊ばせてもいいと思うんだけどなぁ」
「そうね、楓子の言うとおり。何であんなものがあるのか分からないわ」
ほらな、やはり否定的だった。
舞子が会話の中で、今し方奇妙なルビを振った気がするのは、恐らく気の所為では無い。
自分の名前が気に食わないと言うのは前から聞いていた。
だが、まさか友人の珍妙な名で呼ばせる程だったとは……。
そうやって呆れる俺を通り越し、理子が二人に駆け寄っていった。
「おー舞子にデコちゃん、今帰りかー」
「あ、お姉ちゃん」
「理子さん!? その名で呼ばないでってば!」
この文句から分かる様に、楓子は “デコ” と言う単語に敏感に反応する。
名前も区切ると《かえでこ》となるし、最近母親に似て額の面積が広がってきたのが気になるのだとか。
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