第1章:ぼっちな姫は逆ハーレムの女王になる
1人だけもはや別宗教
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はないけど」
「だったらそのまま忘れろ」
「このまま何事も無かったら、ね」
まだ完全に火が消えきっていない昴を前に、この場では最も賢明な判断をした匂坂はそのまま自分の靴棚から内履きを取り出すと靴を履き替える。
「そんじゃまたな、相武くん」
「ああ。またな」
「竜門さんも、また明日」
「え? あ、う、うん。また明日」
匂坂は昴と珠希に別れの挨拶を残すと、擦り剥いた右肘を気にしながら保健室のほうへと姿を消していった。
そして再びその場が珠希、星河、昴の三人だけになると、今まで積極的に空気でいた星河が昴に尋ねる。
「ねえ、昴。今の人、誰? クラスメート?」
「ああ。匂坂雅紀ってんだ。俺らの組のクラス委員だよ」
「へえ、そうなんだ」
「ふ〜ん」
「……竜門。お前、今の『ふ〜ん』は何のつもりだ?」
「えっ? 何のつもりって?」
「まさか今の今まで匂坂の奴を知らないとか言うなよ?」
「え? いやいやまさかそんな――」
「視線をそらすな。めっちゃ挙動不審だから」
珠希が匂坂雅紀のことを知らないというのは嘘である。1年C組最初のホームルームで行われた自己紹介の場、彼も珠希も確かに教室内にいて、ともにクラスメートの前で自己紹介をしたのだから。
ただし、珠希が匂坂雅紀と会話らしい会話をしたのは今この瞬間が実は初めてである。
理由は単純だ。1年C組のクラス委員となった匂坂雅紀はそのさっぱりした性格でスクールカーストの階層を自由に移動しながら、ジョックやクイーンビー、ナードやフローターに至るまで幅広くかつ着実に友人・知人を増やしており、そのコネクタ的役割も果たしている一方で、珠希はそのスクールカースト制度の外でルーザーにもなれない難民と化していたからである。
だからきっと雅紀は珠希のことをほとんど会話の無いクラスメートにしか捉えていないだろうし、珠希も雅紀の身長が昴と大差ないことに今日改めて気づいたくらいで、部活に入っていたことなどつゆ知らなかった。
画一的・徹底的に管理された制度の中で動く人間は、管理されていない無法地帯に飛び出してそこの空気に触れることすら難しい。管理システムの一環としてその無法地帯に踏み出すことすら教育や法によって禁じられ、鳥籠の外は危険だと洗脳されるためだ。
存外――同人業界で稼ぐこともある珠希の場合は特にだが――鳥籠の外の無法地帯の空気のほうが肌に合う人もいないわけではないとはいえ。
「お前、本気でクラスに友人作る気あんのか?」
「ないわけないじゃん」
「だったら自分から行動してみろよ」
「それができたら苦労しないよ」
「だったら苦労してみろ」
「それは嫌」
「てめぇ。即答かよ」
苦労するの
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