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竜門珠希は『普通』になれない
第1章:ぼっちな姫は逆ハーレムの女王になる
ヒロイン像ってつまり妄想のかたまゲフンゲフン
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で積極的に、距離を物理的に縮めてくる人間が苦手な人もいる。それこそ友達とは一方的な関係ではないのだから、相互関係を築き上げるための適切な手段や必要とする時間があるはずだ。

 だが珠希の場合、できるだけ周囲の和を乱さないよう空気でいようとする長女体質に加えて小心者が顔を出した途端、一瞬にして没個性のコミュ障になってしまう。しかも特に年齢が近しい相手に限って。


 そんな中――。

「珠希さんっ。途中まで一緒に帰ろ」

 あれだけ珠希が獲物を追いかけるキロネックスと化したにも関わらず、何事もなかったかのように一緒に変えるお誘いをしにわざわざ隣のクラスから足を運んでくれる星河に、珠希は昼食時間に起きた件の報復に対する不安と恐怖、そしてクラス内で浮いているという孤独と寂寥感も綺麗に跡形なく吹き飛んでいくのを感じた。
 もちろん、それはそれで立派な現実逃避である。

「おい竜門。お前いつまで寝てるつもりだ?」
「寝てませんー」
「だったら帰んぞ」
「んー。ちょい待って」

 星河が来たとなると――案の定、ご一緒していた昴に急かされ、珠希は上体だけを軽く起こし、幼なじみ二人組のほうに振り向く。
 先程まで机との間で潰れていた、立派に実った珠希のそれ(・・)は机の上に乗っかり、その大きさをより強調させる結果となったが、残念なのは机に乗っかった珠希の二つのメロンが星河と昴によって視界からシャットアウトされたことだった。

「だったら早くしろ。置いてくぞ」
「今の時代、俺についてこいとかいうのは受けないと思うなぁ」

 バッグや机の中を覗きこみ、忘れ物がないか確認している中、さらに急かす昴に珠希は思わず本音を漏らす。


 近年の傾向として――何の? とまでは深く追及しないでほしいが――かつての「無愛想」ながらも「義理人情に厚く」、他人のために「無言実行」して「背中で語る」ようなハードボイルドでダークヒーロー気質の主人公は絶滅危惧種T(レッドデータ)にリストアップ済みである。
 代わりに増殖し、巷の矮小な世界を席巻しているのは何の脈絡もなく「巻き込まれ」ながらも、「天性(または転生)」による「チートスキル」で俺tueeeじゃんと「無双(夢想ともいう)プレイ」を満喫する主人公だ。
 なおそこに多種多様な属性とファンタジックな人外のヒロイン(媚や……ではなく、惚れ薬注入済み)が加わればもはや何も言うことはない。悪い意味で。


「……お前何言ってんだ? 頭大丈夫か?」

 そしてこの反応が本来の、珠希の呟きに対する一般的な人間の正しい反応である……はずだ。

「………………うん。大丈夫。今聞いたことは忘れて」
「ああ。積極的にそうさせてもらう」

 昴が空を読む力と理解力に長けた人で良かったと思う
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