暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
解かれる結び目 12
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翼の痕跡は完全に失われても、力の切断部がビリビリと痛みを訴えた。
 切り傷に高濃度の塩水を塗り込んだ刺激に似てる。
 でも、それはすぐに治まって。

「く……ぅ っあ、あ……」
「面白いな。翼の欠損は、神力だけでなく体力にも影響が出るのか」

 急激に思考が落ち込む。
 視界で弾けていた光が、少しずつ小さくなって、消えていく。
 痛みも吐き気も、焦燥感も(しぼ)んで、消えて。
 残ったのは、小刻みにくり返す呼吸と、目の端から床へ伝い落ちる涙。
 それから、明確な喪失感。

 私は、『空間』を司る力を、半分失った。
 もう、この空間からの移動は……できない。


「マリア――――ッ!!」


 ……え……

「! 勇者?」

 レゾネクトが私から飛び退く。
 私の背中の上を、ヒュンと音を立てて白い剣光が走った。

「マリア……!」
「……ど、し……て……」

 闇の中でも眩しく輝く太陽が、私の上半身を仰向けに抱き上げて。
 今にも泣きだしそうな悲痛な表情で、私の目を覗き込む。

「置いて行くな! 俺を一人にするな! もう誰も裏切らせないでくれ!!」

 私の頭を抱えた手に、純白の羽根が一枚、握られてる。

 まさか、王城に移動してきた時の、あの翼の痛みは……

 ……そんな……そんな!
 私は、もう……!!

「い、や……っ! アルフ……!」

 死んでしまう。
 死んでしまう!
 貴方にだけは、生きていて欲しかったのに!!

「レゾネクト」

 アルフが怒ってる。
 私を傷付けたレゾネクトに、泣きながら怒ってる。
 今までにない、険しい表情で。

「翼と羽根は引き合うのか。力は、より強い力に惹かれる。なるほど」

 離れた場所からレゾネクトの声が聴こえる。
 アルフが私を床に横たえて、立ち上がる。

「貴方を、可哀想だと思う」

 アルフの全身が純白の光を放つ。
 暗闇に慣れた目には痛いほどの眩しさが、玉座の間全体を照らし出す。
 また、玉座への階段の一番下に座っていたレゾネクトへ。
 神々の祝福を授かった剣の切っ先を向ける。

「できるなら、助けたかった。一人であることがどれだけ恐ろしいか、俺はよく知ってる。でも、貴方はマリアを傷付けた。それだけは……それだけは絶対に赦せない!」
「アルフ!」

 起き上がろうとする私の側で剣を構え、跳ぶようにまっすぐ走る。
 白い閃光が、赤い絨毯の上を滑って。
 首を傾げるレゾネクトの目前まで迫った。

「助ける? 恐ろしい? 貴様の言葉は、どうにも不可解な物ばかりだ」

 アルフの切っ先が、レゾネクトの額……の、残像を貫く。
 冷静に剣身を返し、上半身をひねる勢いで
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