第5話
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「へえ。じゃあ、加賀野と高山とお前は、三人そろって幼馴染なのか」
周りに幼馴染と言えるような人物がいなかった智は、世の中にはこうした関係もきちんと存在するのだな、と感心してしまった。
「家近いしね。だけど、ヒロの方がもっと幼馴染だぞ」
「へえ」
「あいつら中学も一緒だからなあ」
「高山の彼女ってわけじゃないんだろ」
智の質問の後、優大は天井を見上げて「うーん」と唸ってから
「もったいないよなあ」
とぼそっと答えた。だが、試合をしているコートから沸き起こった歓声のせいで、智にはよく聞こえなかった。
智は優大が何を言ったのか聞こうとしたが、それよりも前に優大が智に「でさあ」と話しかけてきた。
「納涼祭りで演劇やるんだろ」
「ああ。高山から聞いたか」
智がなぜこの回答をしたかというと、演劇部では台本がまだ仕上がっていない間は、部員に新しい演目の詳細をアナウンスすることは原則的に控えており、「もし聞かれたら場所と日時だけは答える」までにとどめているからである。これは演者が役作りをしようと思って、原作を読むなどして登場人物やストーリーの深読みをして、封を切った時の新鮮さが失われてしまうことを防ぐためだ。
「風変りだよなあ」
「やうがりだな」
「すまない。古典はNGで」
両手の掌を見せて、優大は遠慮のポーズをとった。
「本当に嫌いだな、古文とか」
呆れたように智は返す。
「ストーリーだけを読む分にはいいんだよ。竹取物語とか、面白いし」
優大の言葉に智ははっとしてしまったが、得意のポーカーフェイスで優大に気付かれることは無かった。
「まあ、テストに出なけりゃ、それでいいのさ」
優大はすくっと立ち上がり、シャトルを遠くへと投げると、ゆがんだ放物線を描いて落下した。試合をする二人の靴が床にこすれる心地よい音だけが、体育館中に響いている。
直後、四組の生徒たちが歓声を上げ、矢代が力強くホイッスルを吹いた。
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