第5話
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喜の声を上げ、四組の生徒は悔しさをかみしめながらも善人に激励の言葉を送っていた。
もちろん、善人は舞侑が女子だからと見くびっていたわけではない。むしろ、第一ゲームは彼女に譲ることを決めていたのだ。これは舞侑に花を持たせるだけでなく、効率良く攻め、最低限の労力で勝利を得たいがために第一ゲームは犠牲にして相手の弱点を見抜こうという、未知の相手にしばしば使う手であった。
舞侑の方も善人の戦法をすぐに見抜いた。彼のような戦い方の場合、なるべく多くのデータを収集する必要があるため、コートのあちらこちらにシャトルを出して相手を揺さぶろうとするのだが、実際そうであったのだ。舞侑は普段は控えている攻撃的なショットをお見舞いして、ラリーの時間を短くしようとした。シャトルが宙を舞う時間が短ければ短いほど、データは収集できなくなるのである。こうして生まれたのが十点の差であるのだ。
だが、一つのゲームと引き換えに善人の勝ち取ったおよそ百三十回のラリーは、十分すぎるほど舞侑の情報を含んでいた。それまで決定打と言えるようなショットを打ってこなかった善人に、四組の生徒は少なからず不安と焦りを抱いていたのだが、本領発揮ともいえる彼の豹変ぶりに応援の声をより一層大にした。B組の生徒も余裕綽々に見えた舞侑が押されているのを見て、立場がすっかり逆転してしまったと悔しがることになった。
このように熱い状況の変化を経て始まった第三ゲームだからこそ、試合を見ようとコートの周りには黒山の人だかりができていた。その一方で、はす向かいのコートでは二人の男子がのんきに羽根つきをしていた。
「おお、四組が持ち直したみたいだな」
シャトルを打ち返そうと口を開けながら天井を見上げて、相手に話しかけているのは優大であった。
「そうらしいな」
優大の情けない返球を智はぽこんとラケットで叩く。シャトルはネットに引っ掛かり、優大の手元に戻ることは無かった。
「B組の応援、しなくていいの」
「あんなにいるのに、今更いいだろ」
智は落ちたシャトルを拾うと、優大に小さく振って見せた。
「まだやるか」
「いや、もう飽きた」
ラケットを手でくるくると回しながら優大は答える。二人はコートを出て体育館の床に胡坐をかいた。
「お前こそ、見に行けばいいじゃん」
智は言葉と共にシャトルを優大へと投げた。
「うーん、俺が行くとどっちを応援していいかわからんからなあ」
「へえ、加賀野知ってんだ」
「ああ。十二年くらいかな」
優大の思いがけない返答に智は吹き出してしまった。
「まじで?」
「まじ、まじ。俺がここ引っ越してきたのが五歳だから、そんなもんだな」
優大は照れくさそうに笑う。
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