第5話
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同じくらい湿りに湿っていた。
優佳と浩徳が兄妹であったことは、優大に近づく情報としては十分すぎる物であった。結月は、優佳に演劇部の練習日を聞いて早く優大を捕えようと、鼻息を荒くした。
ここがなんとも結月らしい、と言ってはかわいそうだが、これが彼女の運命なのだろう。演劇部と女子剣道部の活動日が重なっていた上に、演劇部は女剣の稽古が終わるよりも前に、活動を終了してしまうらしいのだ。だから、結月が部活後のシャワーも浴びずに、剣道場から講堂へと向かう通路を駆け走っても、舞台の上はいつもがらんとしていた。
こうまでも運の悪さが続くと人は誰でも目に見えて落ち込んでしまうものだ。現に結月は日に日に顔から明るさを失っていった。彼女は優大に会えない理由を、彼が自分や剣道を嫌っているからではないか、とさえ思う時もあった。もちろん、そうではないのは結月自身よく分かっていたのだが、それでもそう思ってしまうのは、心からその人を尊敬し、誰よりも慕っていたからであったのだ。
そして、とどめを刺したは優佳の言葉だった。
「マツさん、彼女いらないってさ―――」
結月は愕然とした。
高校生ならば誰だって彼女や彼氏を作りたいと思っているのは、自分に告白してくる男子を見ていれば分かった。「付き合ってるうちに好きになるよ」などと言って、いつまでもしつこく迫ってくる男子もいたぐらいだ。
この公理から言えば、優大は健全な高校生男児ではなかった。捉え方によっては、世間では一般的とされる恋仲とは違った、ある特定の行為に限られた関係を求める人物になってしまったり、別の気がある人物にまでなってしまう。もしそうだったらと考えると、さすがの優大狂いの結月も真っ青になった。
「もちろん、そっちの方向じゃないよ」と、結月の顔色を見て優佳は慌ててフォローをする。どうやら彼は本当に彼女が必要でないらしく、告白もしなければ女子から言い寄られても良い返事をしないらしい。他校に彼女がいるという噂も無いし、思い人がいるという情報も無いと言う。結月には優大の恋愛に対する姿勢が皆目見当もつかなかった。一つだけ分かることは、自分はどうやら「土俵入りする前から既に黒星をつけられていた」らしい、ということだけだった。
一連の出来事を背景として結月の馬鹿に明るいオーラが失われていくさまを見て、クラスの皆が心配を通り越して不安を感じていた。誰かと会話をしている時は普段の明るさを取り戻すのだが、窓際の席で一人頬杖をつきながら、雨の降る外をぽけーっと見ている姿は、小柄な彼女をより一層小さく見せた。クラスの女子は結月を元気づけようとスイーツの食べ放題に連れて行ったり、昼食を皆でわいわいと食べたりしていた。女子の心など分からぬ鈍感な男子たちも、この時ばかりは結月の前で面白おか
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