第160話 黄承彦がやってくる 後編
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うだった。
「恐れ多いことでございます。面をお上げください」
黄承彦は慌てた様子で正宗に言った。正宗は暫し頭を下げた後、黄承彦に歩み寄った。彼は布の上に座す黄承彦の前で片膝を着き黄承彦と目線を合わした。
「貴公に頼みがある。聞いて貰えるか?」
「頼みにございますか?」
「そうだ。貴公程の人物を在野に埋もれさせるには惜しい。この私に士官し力を貸してはくれないか? 夫と息子を不幸のどん底に落とした関係者である私の元で働くことは不本意かもしれないが考えてはくれないか?」
正宗は真摯な表情で黄承彦を見た。その表情を見た黄承彦は一瞬沈黙していたが直ぐに平伏した。
「私は只の商人にございます。このような私にお声をかけていただいたこと感謝いたします。車騎将軍のお話謹んでお受けいたします。非才の身なれど車騎将軍の御為に尽くさせていただきます」
黄承彦は正宗の家臣になる意思を固めた様子だった。正宗の家臣になることは家族を救う確率を高めるからだろう。この時点で正宗は彼女の家族の助命すると明言していない。だが、黄承彦はのらりくらりと劉表の士官の要請を無視してきた人物である。家族の命がかかっている状況とはいえ、安易に信念を曲げるとも思えない。彼女の中で正宗の何かが琴線に触れたのかもしれない。
正宗は黄承彦の返事に力強く頷いた。
「車騎将軍、私の真名は『紗耶夏』と申します」
「紗耶夏、私の真名は『正宗』という。これからよろしく頼む」
「正宗様のご期待に添えるように尽力させていただきます」
紗耶夏は面を上げると正宗は拱手した。その様子を鳳徳公はずっと凝視していた。
「車騎将軍、私も貴方様に士官させていただけませんでしょうか?」
鳳徳公は正宗に平伏して士官を願い出てきた。
「鳳子魚、お前が私に士官しれくれることは嬉しい限りだが、私に士官する気になった理由を聞かせて貰えるか?」
正宗は真面目な表情で鳳徳公を見た。鳳徳公の自発的な態度の変化に違和感を覚えた正宗は彼に質問した。
「無礼を承知で車騎将軍に申し上げさせていただきます」
鳳徳公は拱手した。
「車騎将軍は『宋襄の仁』を実践する愚者でないと理解したからでございます」
正宗は鳳徳公の話に苦笑した。朱里は鳳徳公の発言に困った表情で苦笑いをしていた。朱里の様子から普段から鳳徳公はこんな感じなのだろう。しかし、この場に泉がいれば鳳徳公に襲いかかっていたかもしれない。
宋襄の仁とは時と場合を考えずひたすら仁義を通し相手に情けをかける春秋戦国時代の君主である宋襄公の故事に由来する。彼は正宗が宋襄公と同じ部類の人間と思っていたのだろう。
「宋襄公か。手厳しい評価だな」
正宗も鳳徳公が自分の人物評をどの
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