第160話 黄承彦がやってくる 後編
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返事した。彼女は自ら夫と息子を傷つけることで二人の命を救おうと考えたのだろう。果断な性格である彼女らしい行動といえたが常人にはできないことだ。
正宗は黄承彦の答えを聞くと沈黙し彼女を凝視した。
「黄承彦。夫と息子の助命が願いか?」
正宗は徐に口を開くと黄承彦に言った。彼から黄承彦の夫と息子の助命の話を振ったことを朱里、伊斗香、桂花は止めることはなかった。黄承彦の行動は徹底した恭順の意を正宗に示しているからだ。
「私は車騎将軍への忠誠の証を立てただけでございます」
黄承彦は正宗に助命の言葉を口にしなかった。正宗の決定に従うという態度だった。しかし、彼女が夫と息子を救いたいと思っていることは間違いないだろう。その証拠に黄承彦は緊張しているのか平伏した状態で肩に力が入っているように見えた。
正宗は視線を鳳徳公に向けた。彼は鳳徳公が黄承彦に知恵を授けたのでないかと考えているのかもしれない。
「黄承彦殿の夫と息子の顔は知っております。実検の使者の役目は私と秋佳にお任せください」
伊斗香が正宗に拱手し名乗りでた。正宗は朱里と桂花に視線を向ける両名とも頷いた。
「伊斗香、お前と秋佳に実検の役目を任せる」
正宗は伊斗香に許可を出した。
「秋佳を呼んで来てくれ」
正宗は陣幕内に控える近衛兵に声をかけた。近衛兵は正宗の命令を受けると陣幕を後にした。正宗は黄承彦に視線を移した。
「黄承彦、面を上げよ」
正宗は瞑目して黄承彦に声をかけた。そして、黄承彦が顔を上げるのを待った。黄承彦はゆっくりと顔を上げると正宗と向き直った。すると正宗は両目を開き黄承彦を見つめた。彼の表情は哀しみを湛えていた。黄承彦が家族を守るためとはいえ、その手で惨きことをさせてしまったことへの嘆きだろう。
「夫と息子の両目と両足の腱を切ったのはお前自身でやったのか?」
正宗は重い口を開いて黄承彦に聞いた。
「はい。このようなことを他人に任せることなどできません」
黄承彦は哀しいさを湛えた表情を浮かべ視線を地面に落とした。彼女は悩みに悩んだ決断なのだろう。正宗は彼女のことを見つめた後に瞑目していたが考えをまとめたのか口を開いた。
「貴公の覚悟は十分理解した」
正宗は黄承彦に敬意を表す言葉遣いに変わっていた。黄承彦の行為は普通の者には真似ができない。自らが家族に恨まれようと生きて欲しいが故に行った凶行だったからだ。
「貴公を疑う訳ではないが、役目上事態を確認しなければならない。許してほしい」
正宗は椅子から立ち上がり黄承彦に頭を下げた。黄承彦は正宗の態度に驚いているようだった。王爵にある者が名士とはいえ無位無官の者に頭を下げたからだろう。端から見ていた鳳徳公も驚いているよ
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