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ダンジョンに出会いを求めるのは間違っていた。
第二十三話
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駄目だったか……」

 使い魔である梟の背を一撫でし魔力へ返す。残滓が淡い光となって落ちていくのを黒衣の人物は、フードの奥で見つめていた。
 紋様が刻まれた漆黒の手袋の中には、梟の片目に埋め込まれた義眼と同じ光を放つ青水晶が握られている。
 全身あますところなく包んだ黒一色のローブがため息するように揺れた。

「私なりに試行錯誤しているんだが……。やはり彼女は一筋縄ではいかない」

 すぅっとローブの袖が夜風に煽られ、わずかに主人の肌の露出を許す。
 尤も、主人に肌があればの話だが。

 その黒衣を剥ぎ取ってしまえば、その下にあるのは綺麗な白い骨格が露になる。
 あるべき瞳はなく、がらんどうな眼窩が空いており。あるべき皮はなく、生え揃った歯やしっかりとした骨格が剥き出し。目も鼻も耳も髪も存在しない、まさしく死の象徴である全てが人ならざる者の証だった。

 知識がある者は彼の姿を見ればスパルトイというモンスターの名を挙げて打ち震えるに違いない。
 
 完璧な骸骨なのに、人間のように滑らかに動き、喋る。超現象である。
 しかし、彼自身はその容姿に恐怖を覚えている様子は無く、むしろそうであるべきだと許容しているように見えるほど自然体だ。

 彼はかつて賢者と呼ばれた男だった。永遠の命を発現させる魔道具(マジックアイテム)、賢者の石を生成した唯一の人物であり、有史以来【神秘】のアビリティを最も極めたとされている最高位の魔術師だ。
 賢者の石にまつわる話は皮肉なもので、神がその場の気まぐれというだけで賢者の石を床に叩きつけて壊してしまうというオチがある。尤もこれは下界の人間に対して「永遠の命は神にしか許されない。その掟を破った罰である」という教訓じみた御伽噺である。

 一般にはその後賢者は絶望のまま死んでしまったと語り継がれているが、実は賢者は逆に永遠の命に執着してしまい、極秘裏に不死の秘法を編み出していたのだ。だがその反動で全身の肉と皮は腐り落ち、空腹も喉の乾きすら感じることのできない人ではない人に成り果てたのだった。

 そんな伝説の賢者はかつての名を捨て愚者(フェルズ)と名乗っている。

 もちろん彼のその姿は一目見られてはならないものだし、何よりかつて賢者と呼ばれた男が生きていたと発覚すればとんでもないことになる。それはオラリオどころか世界の均衡すら破壊できてしまうくらいの騒動になるだろう。不死の秘法という禁忌を実現できるのだから。

 全てを滅亡させられる爆弾に等しいフェルズがなぜ世界で最も熱い都市に身を置けているのかというと、ギルド創設神であるウラノスの腹心として動いているからだ。
 行く当てもないフェルズはウラノスにその頭脳を貸す代わりに、時代の趨勢の観察をしているのだ。

 数百年以上
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