第二話「男の決断」
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手を広げた。
「この方は関係ありません。殺すのなら私だけにしなさい!」
「や、弥生……」
「フン! なら、お前から先に死ねぇ!」
一斉に銃声が響いた。しかし、弥生は銃弾に倒れることはなかった。彼女の前には、青い光が壁となて彼女の身を護っていた。
「何だコイツは!?」
「やはり、RSとやらの力か……」
周囲のISがざわめきだすが、しかし傷の女は残忍に笑んだ。
「なに、無抵抗のまま死なれてもこちらとて面白くない……オラオラァ!!」
傷の女は、再びアサルトライフルを乱射しだす。しかし、その弾はあっけなく弥生を守る光の枠の防壁に跳ね返されてしまう。
「お前ら! 一斉に発砲しろ!?」
傷の女の指示に従って周囲のISも同時にライフルの引き金を引いた。
「くぅ……九条さん! 今のうちに、お逃げください!?」
「え、でも……」
「私に構わず、早くお逃げください!?」
「……」
「九条さん!?」
「……ッ!」
次に気付いたころ、俺は彼女に背を向けて走っていた。彼女の姿が見えなくなるまでひたすら逃げ続けていた。
――どうして、体が勝手に動くんだ。
俺は、逃げるなんて思っていない。ただ、あの状況で何とかしなくてはと思っていた。けど、現に俺は走って逃げていた。体が、反射的に「死」を予測して勝手に反応したのだ。
――どうしてだ? 俺は、逃げたくはないのに……!
逃げたくはない! ここで、逃げたら俺は本当の臆病者になってしまうじゃないか? 負け犬、軟弱者、小心者、嫌な奴らの同類じゃないか?
「止まれ!」
俺は自分の逃げる足に言い聞かせて、その場に立ち止まった。
「ここで……逃げちゃいけない!」
ここで逃げたら、本当の自分を見失ってしまう。けど、はやく山を下りて助けを求めに行くのが先決だ。だけど、それじゃあ間に合わない!
「……くそっ」
――弥生は、俺よりも先に手を引いて共に逃げてくれた。最初に俺を見捨てずに助けたのは弥生だ。最初に、俺に勇気を与えたのは彼女なのだ。俺は、それに反応して手を握り返したのに過ぎないのかもしれない。
「……ッ」
俺は力いっぱい拳を握りしめた。
何をしたい? 俺は心の底から叫んだ。彼女のところへ戻りたいと。
けど、怖い。戻ったら必ず殺される。生きて戻れない。あっけなく殺される。
――怖い。でも、だからって……
……だからって、俺はこのまま今の自分に負けて逃げるのは嫌だ。自分の中に巣食う恐怖に負けるのだけは嫌なんだ!
――勇気を出せ! 俺は……俺は……!
「俺は……」
そして、叫んだ。
「俺は……漢なんだ!!」
次に気付くと、俺は元来た道に向かって走りだしていた。今は勇気という皮を被った無謀なのかもしれない。だけど、今の俺に取ってどんな無謀でも、恐怖に負けない心全てが勇気に感じられた。
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