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逆さの砂時計
解かれる結び目 10
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貴方に心から笑って欲しい。
 これから先の、貴方の本当の笑顔を、貴方の隣でずっと見ていたいの。

 眠りたくなんかない。
 貴方の傍に居たい!

「嘘吐き」

 低くなった声が、心臓に鋭く突き刺さる。
 ザ……ッと背中に滑り落ちる冷気で開いた私の視界を。
 泣きながら微笑むアルフが埋め尽くした。

「マリアは嘘吐きだから、信じないよ」

 私の額に、ついばむよりも軽いキスを残して。

 離れていく。離れていく。
 貴方の心が。貴方の存在が。
 私から離れていく。
 両腕で繋ぎ止めようとしても、追いつけない速さで。

「……なら、信じなくて、いい」

 アルフの体から腕を解いて。

「マリア? 何を……っ!?」

 私が着ている服を全部、脱ぎ捨てた。
 夕方の冷えた風が全身にまとわりついて、剥き出しの肩を震わせる。

「私は貴方が嫌いよ、アルフリード」
「……っ」
「貴方なんか……! 貴方なんか、大っ嫌いッ!! その顔も見たくないし、その声だってもう聴きたくない!! これ以上傍に居るなんて、絶対に嫌!! 二度と触られたくないし、無断で私の心に入って来ないで!! 私の心には、貴方の居場所なんて微塵も無いのよ!!」

 何をしているの? 私は。
 川辺で全裸になって、泣きながら大声で叫んで。
 羞恥心とか全部、川の水に流してしまったのかしら。
 みっともない。
 女神として信じられない言動だわ。
 神々に知られたら、どんな罰を下されるか。

 でも、良い。
 どうせ失うなら、全部まとめて失ってしまいたい。
 アルフからの想いも、アルフへの想いも。
 情けない自分自身も、全部、全部、全部。
 私の手をすり抜けるくらいなら、いっそ貴方に壊して欲しい。
 他の誰でもない、貴方に壊して欲しいのよ、アルフリード。

「大嫌いよ、アルフリード。貴方なんか、この世界で一番だいっきらい! この世界に存在する誰よりも何よりも、貴方が一番だいっきらい!!」
「…………本当に……」

 また。アルフの両手が私の頬を捕らえて。
 今度は、壊れ物に触れるような手つきでそっと、たどたどしく撫でた。
 触れ合ったそこだけが、じんわりと温かくなる。

「君は、どうしようもない嘘吐きだな」

 情けない。
 きっと、今の私以上に情けない表情で。
 アルフの両腕が、私の体を優しく、柔らかく包み込む。

「神々に処刑されそうになったら、君の嘘のせいだと告発するからな」

 冷えた体が、外側と内側から融けていく。
 速度を上げていく心臓の音が、とくん、とくんと、耳の奥で響きだす。

「知らないわ、そんなの」
「……酷い女」

 唇を重ねる。
 体を重ねる。
 言葉
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