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逆さの砂時計
解かれる結び目 10
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ほど、貴方達と過ごす時間を好きになってしまったのよ。だから寂しい。すごく寂しいの」

 勇者一行は、魔王がいなくなった平和な世界には必要ないから。
 普通の人間に戻って、それぞれの日常に戻るのが一番良いことだって。
 解ってる。ちゃんと解っているのよ。
 こんな気持ちは、胸に閉じ込めておかなきゃ

「マリアは嘘吐きだ」

「え?」

 少しだけ体を離して。
 もう一度覗いた(だいだい)色の目が、濡れてる。

「アル んっ!?」

 体を抱いていたアルフの両手が、私の頬を捕らえて。
 アルフの唇が、私の唇を無理矢理に塞いだ。
 強く吸いつかれ、口の中に侵入され、乱暴に掻き回されて、息が詰まる。

「や……! アル、やめ……っ んぅ、うぅ!」

 角度を変え、動きを変え。
 何度も何度も呼吸を奪われて、頭の奥がぼやけてくる。
 せめて手を引き離したいのに、全然力が入らなくて。
 アルフの手首を掴んでも腕を叩いても、抵抗にならない。

「……結局……、俺の帰る場所には、なってくれないんだ」
「…………っ!!」

 やっと解放されたと思ったら。
 さっきよりもずっと強く、後頭部と肩を抱えられた。

 苦しい。
 すごく、苦しい。
 物理的な苦しさだけじゃない。
 アルフの震えた体と言葉が、私の心臓をぎゅうっと締めつけてる。

「好きだ」
「!」
「俺はマリアが好きだ。女神だとか勇者だとか、そんなのはどうでもいい。強くなろうと、懸命に前を向こうとするマリアが、ずっと好きだったよ」

 腕の中に閉じ込められて。
 押し付けられた体から、速まっていく鼓動が伝わる。

「魔王討伐を成し遂げて勇者の看板を下ろした後、きっちりと身形を整えて告白するつもりだったのに。いきなりそんなのはずるいだろ。卑怯すぎ」
「アル フ……」
「マリアの嘘吐き」

 私を包む腕から力が抜ける。
 体が離れていく。

 ……待って…………

 待って!
 離れていかないで!
 私から心を離してしまわないで!

「マリ っ?」

 アルフの首に腕を絡めて、押し当てるだけのキスを返す。

 目蓋を閉じているから、アルフの表情は見えない。
 驚いて……それから、呆れてる? 怒ってる?
 一生傍に居られるわけでもないのに無責任だって、軽蔑する?
 それでも。

 それでも、今離れるのは嫌!

「私、も」

 状況に流されてるだけなのかな。
 泣いてる貴方に同情してるのかな。
 私が寂しいから、私が傷付きたくないからかな。

 どれでもいい。
 そんなの、どうでもいいよ。

「私も、アルフが好き……!」

 離れたくない。
 一緒に居たい。
 
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