プロローグ/バーサーカー
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ヴァルナガンドは酒をあまり呑まない。いや、嗜好品としてワインなどは好むが、それもあくまで『嗜好品』。貴族としてのたしなみだ。
それにここは魔術工房。液体を媒体にする魔術を使うわけではないヴァルナガンドの工房には、当然ワインセラーなどあるわけがない。
その事を告げると、トールは仰け反りながら絶叫した。
「嘘ッ!? 嘘でしょなんでこんなマスターに召喚されちゃったのよ私!
もう最悪! お酒がない生活なんて耐えられないッ!」
──た、ただのアルコール中毒者か!?
ヴァルナガンドがそう当惑していると、叫び終わったトールは、暗い目で工房の天井を睨み付けた。
「もうダメ。こんなところには居られないわ」
そして彼女は、その手を掲げる。開いた手に雷電が集い、一つの形をとっていく。
──それは白い槌だった。巨大な両手槌。うちに秘めた圧倒的な神気で、周囲のマナが歪んでいるではないか。
宝具。サーヴァントの伝説の象徴たる、神威の顕現。
そしてトールの持つ大槌とは、一つしか有り得ない。
「『悉く打ち砕く──」
「やめ……」
ヴァルナガンドが、その右手の令呪の存在を思い出すのより早く。
「──雷神の槌』!!!」
閃光が、爆発した。
大気を引き裂いて、雷が広がる音がする。ドガァァァンッ!! というその轟音は、音圧だけでヴァルナガンドの工房内をメチャクチャにした。
それだけではない。『悉く打ち砕く雷神の槌』の一撃を受けた工房の壁は、粉微塵に爆算、工房自体が瓦解を始める。
「くっ……ま、待てッ!」
吹き荒ぶ粉塵で遮られた視界の中、ヴァルナガンドはバーサーカーの姿を探す。
しかし、視界がクリアになったときには──既に、赤毛の酒豪は、どこにもいなかった。
後には呆然と立ち竦むヴァルナガンドと、瓦礫の山と化した工房と、夜空だけが広がっていた。
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