暁 〜小説投稿サイト〜
その魂に祝福を
無垢の時代
山郷で迷う吸血姫
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右も左も茂みに覆われている。ここから先に進んだというなら、それは最早入水自殺をしたと言うのと大差ない訳だが……。
「となると――」
 そっと心眼を開く。湖面からは確かに魔力の揺らぎが感じられた。おそらく、だが――この先に異境が広がっている。恭也達はそこに迷い込んだか招き入れられたかしたと考えていいだろう。その揺らぎに魔力を注ぎ、閉じかけていた入り口を開く。それでも感覚的に、冬の水面に跳び込むにはそれなりの覚悟が必要だったが――
『竜宮城って感じじゃねえな』
「ああ。だが、狸と狐にしては文明的だな」
『違いねえな。ヒャハハハハハハッ!』
 跳び込んでしまえば、その先に広がっていたのはどうという事もない街並みだった。古めかしくはあるが、それだけだ。例えば迷宮ゴリアテのような生々しい場所だったなら泡を食って探しに行くところだが……一見して危険があるようには見えない。無論、危険の有無など見ただけでは分からないが、恭也達が入り込んでどれだけ経ったか分からない今、ただいるだけで生命が危険に曝されるような場所ではないと楽観視する事を決めた。というより、決めざるを得ない。
「さて。恭也達を見つけるなら、自動車の修理店を探すのが近道だろうが……」
『問題はここからどうやって出るか、だな』
 振り返った先には、何の変哲もない道が広がっていた。下ってきたと思しき崖までざっと数百メートルはある。その距離をすっ飛ばされた以上、単純に引き返せば出れるという訳でもなかろう。あるいは恭也達も出る事が出来ずに彷徨っているのかもしれない。それに、もう一つ懸念がある。
「気付いているか、リブロム」
『まぁな。単純に閉じ込められただけじゃなさそうだ』
 明らかに気温がおかしい。少なくとも、真冬の気温ではない。単純に隔離されただけ、と楽観を決め込める状況ではなさそうだ。
『人が住んでいる気配だけはするな』
「ああ。気配だけはな」
 街の明かり。路地の向こう側から聞こえてくる話し声。夕食の匂い。人がいる気配だけはそこに存在している。だが、それだけだ。心眼で見る限り、人間と思しき気配はまるで見当たらない。それどころか、野良猫一匹見当たらなかった。
『懐かしいねぇ、この感じ……』
「タルタロスの廃墟、か」
 かつて故郷に存在した魔境の一つ。入る事は出来ても出る事は決して許されない。なるほど、もしもここがあれと同質の魔境だとするならこの有様にも納得がいく。
「元凶の魔物をおびき出す前に、恭也達と合流するか」
『だな。向こうが見逃してくれりゃそのまま御暇してもいいしよ』
 それは確かに。だが、そこで楽ができるかどうかは怪しい。ここが事実タルタロスと同じなら、だが。それに、問題は他にもある。
「何故湖底に街が……いや、村か。どちらでもいいが、何故集落がある?」
『順
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