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その魂に祝福を
無垢の時代
山郷で迷う吸血姫
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「全員走れ!」
 不本意だが、このまま逃げるより他にない。さもなければ、寒中水泳が待っている。しかも冬用の分厚い服を着たままだ。そうなれば俺はともかく、他の三人は生命に関わる。溺死か凍死か。どちらにしても願い下げだ。
「どこに!?」
「この村から出るんだよ!」
 水が入ってきているなら、俺達が出られない訳がない。大体の勘を頼りに、急激に水没しつつある村を駆け抜ける。
「冷たい……ッ!」
「頑張って、すずか!」
 踝からたちまちのうちに膝下まで水に浸かってしまった。足に水が絡めば、嫌でも速度が落ちる。加えて、水の冷たさが体力を奪っていく。このままでは間に合わない。
「魔人よ!」
 異形の石面を装着し、全身が揃った巨大なゴーレムへと変身する。
『掴まれ!』
 言うより先に、三人の身体を引っ掴む。こうなれば、人間とは歩幅が違う――が、それより冷たさを感じないのがありがたい。
「これは……揺れさえ我慢すれば、なかなか爽快だな」
『元気そうで何よりだ』
 首元にしがみついた恭也の場違いな上機嫌な声に、思わず転びそうになった。だが、何とか踏み止まってさらに加速する。すでにゴーレムの腰辺りまで水が溜まっていた。普通の人間なら、すでに足がつかなくなっているだろう。ゴーレムの身体であっても、走りにくい事この上ない。それでも、
『よっしゃ、相棒もう少しだ!』
 ちゃっかりすずかに庇われながら、リブロムが歓声を上げた。よほど水没するのが嫌らしい。別に水に濡れたからどうなるものでもあるまいに。
『そのようだな!』
 ともあれ。水に沈み分かりにくいが、すでに最初に降り立った辺りだった。俺の予想が外れていなければ、このまま真っ直ぐ進めば村から出られるはずだが――
「近づいてきたわ!」
 どうやら予想は外れなかったらしい。崖が――魔力の揺らぎが近づいてくる。三人を振り落とさないよう気をつけながら、拳を振り上げる。ビシリ――鈍い音を立てて、魔力の揺らぎに亀裂が走って――
「出れた、らしいな」
「そのようだ」
 気付いた時には、あの申し訳程度の湖岸に四人と一冊で転がっていた。すでに夜は明けつつある。積もった雪が朝日に反射してキラキラと輝いていた。
「あのな。すずかのためにもこれだけは言っておきたいんだが……」
 朝日を浴びながら、呻く。
「もうお前達のデートにはつきあわないからな」
「そんなこと言いながらついてきてくれるあなたが私は大好きよ」
 取りあえず、そんな感じで。今回の逢引は幕を閉じた。




 さて。
 リンディとの不毛な駆け引きを終え、なのはの部屋に向かったのは、そろそろ就寝時間も迫る頃だった。
「――と、これが俺の知り合いのTさんが経験した本当の話だ」
 あの『村』での一件を怪談風に掻い摘んでなの
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