暁 〜小説投稿サイト〜
その魂に祝福を
無垢の時代
山郷で迷う吸血姫
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た攻撃だった。すずかを『曾根田幸恵』だと思い込ませたのと同じ力だろう。
「すずか!」
 忍の悲鳴に振り向くと、鋭い何かが鼻先を掠めた。恭也から鉈を奪い取ったらしいすずかが躍りかかってくる。鉈そのものは妖刀で払いのけたが、それ以上はどうしようもない。まさか傷付ける訳にもいかないが……吸血鬼としての身体能力を全開にしているこの娘を相手にするのは容易ではない。魔物はまだゴーレムと組みあっているが……それとていつまでも続くものではない。
「光、君……。にげ――」
 言いかけて、忍までが襲ってきた。躊躇いなく薙ぎ払える下級魔物などとは比べ物にならない程厄介な相手だ。下手に反撃も出来ない。これで恭也まで術中に嵌ったら大よそ最悪の状況になる。
「クソッ!」
 恭也が動いた。背筋に冷たいものが走る――
「これで、どうだ!」
 が、恭也の狙いは俺ではなかったらしい。力任せに振るわれる大鎌とゴーレムの腕とを掻い潜り、魔物の足に駆け寄る。すれ違いざまに鉈を振るった。
「徹を込めても振り抜けないのか……ッ!」
 驚きと悔しさを滲ませて恭也が呻く。それでも、魔物の太い足に驚くほど深々と鉈は喰い込んでいる。そのせいで手放さざるを得なかったのだろうが……再び魔物の巨大な目が怪しく光る。だが、恭也は躊躇わず鋭い何かを魔物の目に向かって投げつける。魔物が顔を抑え、苦悶の声をあげた。
(なるほど、倉庫で見つけた五寸釘か)
 理解してから、背筋を強張らせる。相変わらず恐ろしい奴。半分は俺が嗾けたとはいえ、鉈と五寸釘程度で魔物に立ち向かおうと考えるのも恐ろしいが――
「……あ、あれ?」
「よ、良かった。すずか、正気に戻ったのね。って、私もか……」
 それで本当に痛撃を与えてしまうアイツはつくづく恐ろしい。目の前の魔物よりよほどだ。さすがは相棒――御神美沙斗と同じ血を引いているだけの事はある。
 ともあれ、すずかと忍の事はリブロムと恭也に任せ、魔物に集中することにした。なかなか焦らせてくれたが、そろそろ終わりにするとしよう。
(二度もウチの義妹に手を出したんだ。ただで済むと思うなよ?)
 それに、そろそろ仕込みも仕上がる頃合いだった。三叉の雷撃波を撃ち込む――と、怒りに身悶える魔物の身体に痙攣が走った。その身体に雷の魔力が絡みつく。
「石片よ」
 轟!――と、絡みついていた魔力が一気に起爆する。さらに、ゴーレムが頭上で組んだ両手を力任せに振り下ろした。爆発の残響に交じり、固い物が潰れる特有の音が重く低く響く。そのまま地面に潰れるように、どす黒いタールのようなものが流れ去って――
『オイオイ、ちょっと気が早えぇんじゃねえか?!』
 夜空にヒビが入り、そこから水が降り注いできた。これでは救済するにしても生贄にするにしても時間が足りなかった。こうなっては仕方ない
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