無垢の時代
山郷で迷う吸血姫
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なければ直せるものも直せないらしい。
いや、この際それはいい。まずその改造癖をどうにかしろ。自作の防犯装置の誤作動に巻き込まれ、恭也と二人で死ぬ思いをしたのはまだ記憶に新しいというのに。
「でも、こんなところじゃ部品なんて手に入らないんじゃ……」
心細そうにすずかが言った。人里離れたというのは伊達ではなく、部品屋はおろか民家すら――いや、街頭すらない。分厚い雪雲に覆われて月明かりすら望めやしない。今辺りを照らしているのは、俺が魔法で生み出した鬼火だった。人目がないからこそできる芸当だが、感謝する気にはなれないのは全員に共通する思いだろう。
「どんな部品があればいい?」
もう一度――いや、何度目かのため息をついてから、忍に問いかける。先ほどからほかの車が通りかかる気配は全くない。おかげで魔法を使える訳だが……だからと言って、このままここで一夜を明かすのは避けたいところだった。俺以外は凍死の危険性がある。それに、不死の怪物といえど寒いものは寒いのだ。
「ひとっ飛び街まで行って買ってくるから一覧にしてくれ」
本当に移動手段が断たれた訳ではない。魔法さえ使えれば、方法はいくらでもある。もっとも、今の自分の力量ではあまり大それたこともできないが。それに――言い訳じみて聞こえるが、どこに人目があるか分からないのだ。あまり派手なことはできない。
「助かるわ〜! ちょっと待ってね。すぐにメモするから」
「あまり専門的な用語で書かれても困るんだが……」
正直、あまり機械に関しては詳しくない。まぁ、本当の意味で『知らない』事はないのだろうが、その叡智を汲み出すための『器』がなかった。この世界で生きていくなら、そのうち追々補っていかなければならないのだろうが。だが、少なくとも今の時点では俺は全くの門外漢だった。
「大丈夫! 任せて!」
甚だ心配だった。だが――まぁ、街に出たら士郎あたりに電話でもすればいいだろう。彼も俺と違って機械に精通している。というより、乗り物と名のつくものは大抵運転できると豪語しているくらいだ。それこそ、最悪は士郎を連れてくればいい。
「さて。それじゃあ、俺も準備するか」
義姉が必要な物品を書き出している間に、恭也を連れ近くの茂みに踏み入る。枯れ葉も小枝も雪に濡れているが、乾かせば燃料として使えるだろう。
「ホント手慣れてるわよね」
比較的乾いている物を選んで鬼火を引火させ、残りを周りに並べて多少なりと乾燥させるようにしてから、メモを受け取る。
「隼の翼よ」
練り上げた魔力が翼となって背中に顕在する。軽い浮遊感の後、一気に加速する。冬の風は身を切る程だったが――それでも、雪の降る夜は嫌いではない。暖を取れるように手配してきたから、別に特別急ぐ必要もないだろう。仄かな薄紫に光る夜の中を、気持ちだけはのんびり
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