暁 〜小説投稿サイト〜
その魂に祝福を
無垢の時代
山郷で迷う吸血姫
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な事を言った。新聞の日付には昭和三三年一〇月一三日と記されている。
「何故進んだ?」
「それはもちろん、俺を殺すためだろう」
 恭也の問いかけに、光はあっさりとそう答えた。
「『曾根田次郎』は賛成派だ。それもかなり急進的――過激と言ってもいいな。もちろん、他の家族は皆反対派で、再三衝突を重ねたらしい。無論、他の反対派の人間とも。他の賛成派達と比較しても、特に派手にやりあったらしいな」
 言いながら、光は手にしていた新聞を恭也に渡した。姉と一緒に、その新聞を覗き込む。そこには、連続殺人事件の被害者が四人にも及んだと書かれていた。一番新しい被害者は曾根田幸恵と書かれていた。
「その頃には『曾根田次郎』は家族から離れ、離れの蔵に引き籠って生活していた。それに、元々素行も悪く村人から煙たがられていたらしい。加えて言えば、賛成派は新たな住居が決まった人間から村を後にしていき、村内に限って言えば少数派になっていた。それも狂気を暴走させるには充分な要因になる。だから、だろうな」
「まさか……」
 恭也が言いかけた時、突如として村中に鐘の音が鳴り響いた。夜の闇を焦がして、火柱が立ち上がるのが見える。方向は、今まで私達が進んできた方――つまり、『曾根田幸恵』が帰ろうとした屋敷がある方向だった。
「私刑、か……?」
 苦々しく恭也が呻く。そこで、光の姿が、周囲の風景と一緒に一瞬だけ歪んだ。
「光君! それ……ッ!」
 次の瞬間には、光の身体からはっきりと血の匂いがした。所々皮膚が赤く膨れ、皮がめくれている。多分、火傷なのだと思う。
「ああ。危うく丸焼きにされる所だった」
「は、早く冷やさなきゃ!」
 でも、綺麗な水なんて手に入るの?――慌てる私に、光は大丈夫だよと言ってから、
「癒しの花園よ」
 光が囁くと、周囲に黄金に輝く花園の幻影が浮かび、舞い散る花弁が彼の身体の傷を消していった。
「ま、あれくらいなら放っておいても勝手に治るけどな」
 ポンポンと私の頭を撫でながら、光は笑って見せた。
「大丈夫なのか?」
「見ての通りさ」
 恭也に向かって、光は肩をすくめて見せる。そこで、再び景色が歪む。今度ははっきりと辺りが冷え込んできた。
「また時間が進んだ?」
「仕留めそこなったからな。もう少し直接的な手段に訴えてくるか」
 言いながら、光はうっすらと笑っていた。その笑みにゾクッとする。怖い――そういう感情がない訳ではないけれど違う。それだけでは足りない。奇妙な魅力さえ感じさせる蠱惑的な笑みだった。
「『曾根田次郎』が死んだなら、もう事件は終わったんじゃないのか?」
「終わらないさ。『曾根田次郎』は犯人じゃあないからな」
「何だと?」
「俺にその『記憶』がない。彼は無実だ。冤罪だよ、おそらくな」
 それはとても酷い話だった。
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