無垢の時代
山郷で迷う吸血姫
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「あ、光君。今時間は良いかしら?」
いくつかの世界を滅ぼしかねない壮大な親子喧嘩が終わってから数日後。右目を『取り戻す』目処が立った頃の事だ。その頃になれば、艦内も大分静かになっていた。おそらく事後処理にも一区切りついてきたのだろう。となれば、
「今度は何だ?」
そろそろ来るだろうとは思っていたが――ため息を隠すこともなく振り返る。そこにはいい加減見慣れてきた女の姿があった。
「そんな嫌そうな顔をしなくてもいいじゃない?」
「根が素直なんだ。それで、用件は?」
決着をつけた翌日、大体の事は説明したはずだ。というより、あれ以上の説明は色々と不都合がある。それに、時間があるならさっさと雫の精製――追体験をして、右目を『取り戻したい』ところだった。
「ここじゃ何だから、食堂に行きましょうか」
「人目があると訊き辛い事は訊いて欲しくないな」
「ゆっくりお茶でもしながらお話ししましょうって事よ」
それはそれで懸念がある。腕組みをし、半眼になってから告げる。
「言っておくが、お前の入れた茶は飲まないからな」
それに対しての返事はなかった。
「あ、そうそう。そう言えば――」
茶の選択から始まった不毛な駆け引きが一区切りついた頃、角砂糖入りの抹茶を啜っていたリンディが、ふと思い出した様子で言った。
「なのはさんを追いかけている時、誰かがサーチャーにハッキングしてきたんだけれど、心当たりはないかしら?」
「……なのはを追いかけている時となれば、俺が禁術を使った後の事だろう? なら分かる訳ないだろうが。その頃俺は死にかけていたか衝動に呑まれていたかのどちらかだ」
心当たりがあるかだと?――あるに決まっている。未知の機械に対してそういう真似が出来るとすれば、それはまず間違いなく義姉――月村忍の仕業に違いない。
(ほら見ろ。目をつけられたじゃないか)
まったく、つくづく危険な真似をしてくれる。まぁ、彼女は時々妙なところで軽率な真似をする事がある訳だが。そう、例えば――
(あの日の夜だって、もう少し大人しくしていてくれれば、ああまで面倒な事にはならなかっただろうに……)
雪の降る夜の記憶を思い出し、ため息をつきそうになった。だが、そんな暇も惜しい。義姉のため。そして義妹のため、何とかしてリンディの関心を他所に移さなければならない。おのれ恭也め。俺の世話を焼く暇があったなら、まず自分の連れ合いの世話でも焼いていろ。
(だが、助かったのは事実か……)
何であれ恩は返さなければならなかった。それなら仕方がない。それに、
(事はすずかにも影響するからな)
妹の世話を焼くのは俺の役目なのだ。それはいつだって変わらない。
……――
「なのはちゃんと光君、大丈夫かな?」
数日前からニュースを騒がせている、震
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