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志を抱き才と戯れた男
1話
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第1話

「桂花、貴女ならばこの状況、どう動く?」

 地図に幾つもの石を置き、現状を分析していた華琳は、両目を閉じ思考に沈んでいたかと思うと、思いついたかのように桂花に声をかけた。

「敵は百万。それに対して此方の動員できる兵力は約三万。実際に戦闘に参加する敵兵は遥かに少ないでしょうが、それでも十倍程度の差が出ます。動くと聞かれましたが、守りに徹して動かないのが最良では無いでしょうか」

 質問を振られた桂花は、少しだけ考える素振りを見せつつ、意見を出した。彼我の戦力差が違いすぎるのである。勝ち目があるとは思えなかった。青州で暴れていた百万の黄巾の残党。それが?州まで流れ込んできていた。その対処に追われているのである。

「そうね。それが最良の案でしょうね。だけど、これは好機なのよ。私が飛躍する為の。だからこそ、勝たなければいけない。曹孟徳の力を、示さなければいけないのよ」

 桂花の言葉に、華琳はそう応える。誰が見ても勝てない戦い。それに勝つ事に、意義があるのだ。 

「華琳様。わかりました。一人、推挙したい者がおります」
「へぇ……。この状況で推挙したい人物ね。良いわ、言ってみなさい」
「はい、その男の名は――」

 圧倒的劣勢な状況。それを覆すため、桂花は一人の男の名を上げた。






 寝台に座したまま、書簡を開く。竹簡では無く、書簡であった。つまりは、紙である。紙は、竹簡と比べて貴重なモノであった。自分に連絡を取るぐらいならば、竹簡に筆を下ろせば良いにも拘らず、紙が使われていた。それは、此度の要件がそれだけ重要と言う事を示している。十中八九厄介ごとだろう。予想では無く、確信。別に自分に予知能力がある訳でも無く、単に経験則だった。

「――ごほごほっ。まったく、相も変わらず、勤勉な奴だ」

 咳を零す。右手を口元にあてるだけで、それ以上は構わない。と言うよりも、できる事は無かった。暫くすると、僅かに揺らいでいた視界が正常に戻る。対処法は心得ていた。いや、正確には対処法では無いのだが、慣れた事であった。それは、何時もの事だったのだ。
 ゆっくりと右手を見詰めた。そのまま傍らにある、汚れを拭う為の布を一枚手に取りながら、腐れ縁とも悪友とも取れぬ少女の顔を思い出す。黄色い独特な帽子が特徴的な、黙っていれば可愛らしい少女だった。以前あった時に、自分の得た主人の素晴らしさを延々と語っていたのを思い出す。自分の主人に心酔しているのは構わないのだが、見ず知らずの人物の話である。最初は興味深く聞いていたのだが、度が過ぎればその限りでは無い。会いに来る度に、日が沈むぐらいの時間、延々と同じ人物の話をされれば、誰でも嫌にもなるだろう。好奇心が許容する範疇をゆうに超える長さのアレは、一種の拷問であったので
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