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志を抱き才と戯れた男
1話
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それ程までにすさまじいのだ。だからこそ、この戦に勝利すれば、曹操軍は飛躍的に強くなるのだ。負ける訳には行かない戦いだった。力強く頷いた、夏候惇将軍の存在が心強く感じた。

「ええ、行きましょう。この一戦を、天に示す」

 ただ、応えた。あとは戦場を駆け抜けるだけである。そう思うと、不思議と体が軽くなるのを感じた。





 城壁から見下ろすと其処には夥しい量の人の群れが目に入る。どこを見渡しても、人人人。老若男女、様々な世代の人間が、その地に集結していた。青州黄巾賊。総数は百万を超えると言われるほどの大軍が、秋蘭の守る砦に向かい、気炎を上げる。圧倒的物量から繰り出される気勢、歴戦の将夏侯淵を以てしても、その圧力には冷や汗が零れる。

「解ってはいたが、凄まじいな。姉者は上手くやれるのだろうか」

 強固な砦に籠城しているが、春蘭率いる遊撃部隊と華琳率いるもう一つの砦に駐屯する部隊とうまく連携しなければ瞬く間に呑み込まれる事だろう。だからこそ、秋蘭の呟きは仕方が無いと言えた。

「いや、心配しても詮無きことか。あの桂花が推すほどの男が補佐にもついている。今は信じて耐えるだけか」

 春蘭の補佐には、戯志才が付けられていた。今回の作戦の根幹を華琳と共に立案した男であり、あの男嫌いの桂花が、現状を打破するために推挙した人物でもあった。戯志才には何の実績も無いが、秋蘭は桂花の実力には信頼を置いていた。何よりも、あの桂花が、華琳の進退を決める程の戦において、推薦するほどの人物であった。桂花の男嫌いは周知の事実であるし、その桂花が男を推挙すると言う事自体、極めて珍しい事だった。

「さて、戯志才と言う男。どれほどの才覚を持っているのか」

 そんな桂花が、この局面において呼び寄せた男。戯志才。華琳と面会するや、そのまま戦術の話に移り、華琳をその気にさせていた。秋蘭の興味を引くには充分だった。

「来るか。この戦い、生き残れたならば、一度語り合ってみたいものだ」

 秋蘭は城壁の上から、弓を構え矢を番える。砦に群がる、無数の人の群れ。途方もない数の、人間。その全てが、頭に黄色い巾を身に付けていた。黄巾賊。その存在の象徴だった。全ての兵が弓を構えていた。号令をだす。眼下に広がる一面の黄色に向かい、矢を放った。僅かに動揺が敵軍に広がるのが解った。だが、それだけであった。

「姉者、頼むぞ」

 秋蘭の呟き。黄巾賊の挙げた雄叫びに溶け、消える。黄巾賊と、曹操軍。今後の行く末を決める戦いの火蓋が、今切られた。
 





「続け! 黄巾の有象無象共を、蹴散らすぞ!!」

 夏候惇将軍が気炎を上げる。眼前に広がるのは、圧倒的物量を持つ敵軍の群れであった。一人一人は碌な武器を持っておらず、中には木の枝や
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