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志を抱き才と戯れた男
1話
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成す事無く死を迎える。そのような終わりは、望むところでは無い。ならば、死地など如何と言う事は無いのだ。

「戯志才?」
「つまらない事を言いましたね。話を続けましょうか――」

 曹操殿が、怪訝そうな顔をして名を呼んだ。柄にもなく、語り過ぎていた。強引に話を戻す。顧みるモノなど無い。そう自分に言い聞かせ、話を進めた。






 頬を風が撫でた。優しくありながら、どこか残酷な柔らかな感触を懐かしく思う。体が何の不自由も無かったころは、慣れ親しんだその感覚だったが、今では酷く懐かしく感じた。まだ、生きている。狂おしいような衝動は無い。だが、確かに生を実感していた。まだ、自分は戦えるのか。そう思うと、それが酷く嬉しかった。まだ、命を燃やせることが、嬉しいのだ。

「ふっふ、逃げずに来たか戯志才!」
「此処まで来て逃げたと言うのならば、男が廃ると言うものですよ」

 久方ぶりの戦場の感覚に浸っていたところで、夏候惇将軍に声をかけられた。曹操軍に客将として身を寄せると決めた日、戦の事を曹操殿と語り合った日から、彼女とは面識を得ていた。自身が補佐する事になる人物である。戦場で 実際の指揮を執るのは彼女なのだ。だからこそ、友好関係を築く事は必須だと言えた。

「正直、お前の話は小難しくて解らん事も多い。だから難しく考えるのはやめた。今この場に逃げずにいる事が、信頼するに足ると思う」
「夏候惇将軍ほどの方にそう言って貰えるのならば、私も鼻が高いと言うものです」

 夏候惇将軍は、理屈ではなく野性的な感覚を持つ将軍だった。予想だにしない事を言いだす事もあり、驚かされることも多々あったが、なんだかんだ言って憎めない人なのだ。一言で言えば、純粋なのだ。だからこそ、愛嬌を感じると言う事だろうか。

「今回の戦、我らの部隊が最も厳しい戦場だと聞いている。華琳様にも、念を押された。細かい指示は任せるぞ」
「承りました。夏候惇将軍には、縦横無尽に駆け抜けて貰いましょう。貴方の武技の冴えが、全軍の心の支えとなります。期待させてもらいます」
「ふふ、そう言われると、些か照れるな! この夏侯元譲に、先陣は任せると良い」

 どんっと胸を叩き、気合を入れる夏候惇将軍。普通の将軍ならば、並み居る敵の数に呑まれ意気消沈しても不思議では無いのだが、彼女からはそんな気配が微塵も感じられない。百万の敵の圧力を感じていないように見える。実際にはそんな事は無いだろうが、そう見えるだけでも充分すぎる器だと言えた。そんな人物と馬を並べ、語っている自分に酷く奇妙な感覚を覚えた。

「では、行きましょうか」
「ああ。この戦、勝つぞ!」

 敵軍に目を向ける。百万の軍勢である。実際に戦える兵士は半数にも満たないだろうが凄まじい圧力であった。数の力とは
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