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志を抱き才と戯れた男
1話
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しびれを切らした黄巾賊本体が出て来た時、勝負を決める。それが作戦の全容だった。気付けば、曹操殿も身を乗り出し、言葉を紡いでいた。目つきから変わっていた。此方の言葉を、興味津々と言った感じに耳を傾けてくれている。机の上に置かれた地図の上に、様々な駒が置かれていく。

「奴らにも時間は余りないでしょうからね。二つの砦にはたんまり食糧があると、情報を流しましょうか」
「遊撃部隊が補給できるよう、山野にも幾らか隠しておくのが宜しいでしょうな」
「ええ、桂花。食糧の手配、直ぐに取り掛かりなさい。私は、戯志才ともう少し話を詰めるわ」
「畏まりました。戯志才……、後方は気にしなくて良いから、華琳様を頼むわよ」

 曹操殿の言葉に、文若は一言だけ残すと、直ぐ様踵を返した。兵糧は戦の要である。その手配に向かうのだろう、一瞥だけして見送り、視線を地図に戻す。今は他人の事より、戦の事が大事であった。圧倒的劣勢の戦。それを我が手で覆すと思うと、心が熱く燃え滾る。武人と言うよりも、軍人とするのが自分には合っているのだろう。天下の安定を願う気持ちはあるが、それとは別の次元で戦と言うものが好きで仕方が無いのが、軍師と言う生き物なのだ。

「やはり、遊撃部隊が肝心でしょうね」
「はい。だからこそ、其処には曹操軍最強の者を当てて頂きたいところです」
「そのつもりよ。うちで言うなら春蘭かしら。……ああ、夏侯惇のことよ」
「夏侯惇将軍ですか。音に聞こえたその武勇ならば、妥当でしょう。補佐には私が回ります」

 聞き覚えの無い名前に一瞬考え込むが、曹操殿が直ぐに補足してくれた。夏侯元譲。曹操軍きっての猛将と聞いていた。その武勇は凄まじく、名を聞いただけで敵兵は怯えると謳われるほどの女性であった。その武勇故か、指揮は猪突猛進との一言であるが、その突破力は遊撃部隊として最適であると言えた。猪突猛進なところは、上手く手綱を取れば問題ない。寧ろ、将が勇猛なほど都合が良い。

「……意外ね。遊撃部隊と言ったら、一番過酷な戦場になるわよ。軍師がそんなところに好き好んで出向くなんて、変わっているわね」
「まず間違いなく、地獄を見る事になるでしょうね。だからこそ、此度の戦の要となるべき部隊であるともいえます。その死地に身を置き、指揮を執る。軍師とする者ならば、それは忌避するべき事では無く、歓喜すべき状況なのですよ」

 初めて表情を変えた曹操殿に、にやりと笑みを浮かべ答える。最も厳しき戦場で、自身の才覚を持って戦況を覆す。将として、軍師としてそれが成せると言うのならば、それは命を燃やすのに相応しい戦場と言えるだろう。時が経てば立つ事すらできなくなり、臥する運命である。確証は無いが、確信していた。自分の体の事である。自分が一番分かっていたのだ。時が経てば、衰弱し、床に臥し、何も
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