1話
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たうえに、遂には出向いてきた知人に僅かばかりの意趣返しをするも、しれっと返される。その姿を見て、変わらないなと笑みを零す。相変わらず、欠片も歩み寄る気配が見えない。相変わらずである。これぞ、荀文若と言ったところか。
「なに、少しばかり意趣返しをしただけだ。同じような書簡を何度も送られれば、皮肉も言いたくなると言うものだよ」
「それについては素直に謝罪するわ。ごめんなさい」
荀ケが頭を下げる。僅かばかりに目を見開いた。此れまで、どれほど文句を言っても頭を下げる事など無かった文若が、頭を垂れた。それだけ切迫しているのかも知れない。と言うか、しているのだろう。独自に得ていた情報で、ある程度の事は推測できていた。青州黄巾賊。それに襲われた刺史が、曹操軍に援軍を依頼したと言うところだろう。数の上では百万の軍勢である。幾ら精鋭揃いの曹操軍とは言え、まともにやれば敗北は必至だった。だが、戦わざる得ない。曹操の本拠地もまた、?州にあるのだ。だからこそ、文若は焦るのだろう。
「少しばかり拍子抜けだが、良いか。状況は?」
「いちいち引っかかる言い方ね。その点については後々追求するとして、最悪ね」
「成程、端的に現状を現している、良い言葉だ。勝算は?」
「正直見当もつかないわ。けど、華琳様は勝つ気でおられる」
俺の言葉に文若は答える。勝算は未だ見えず、それでいて主は勝つ気でいる。成程、文若が焦る訳だ。他者より優秀な所為で、現状を理解し、身動きが取れない。そんなところだろう。だからこそ、俺にすら助力を求めてきたと言う事か。少しだけ姿勢を崩す。
「ほう、それはまた凄まじい。苛烈な人のようだ。ならば、我が命、それ程の人物の下で燃やし尽くすのも面白い、か」
文若の言葉に、笑みを浮かべる。曹孟徳。百万の軍勢を相手に勝つ気でいるとは、噂以上の人物なのかソレともただの愚者か。どちらにせよ、並の器では無いのだろう。
「それじゃあ……」
「ああ、我が力、曹操殿に預けてみよう」
告げる。既に結論は出ていた。未だ、主とするべき人間を見つけた訳では無い。王とは何かという問いの答えも出ていなかった。だが、既に時間は多く残されていないのだ。悠長に考えている時間は無かった。だからこそ、最期に回ってきた天命に、身を任せてみようと思う。文若が認めたほどの人物である。少なくとも、並の人間でないのは確かだろう。だからこそ、動くのだ。どちらにせよ、それ以外の道はもうないだろう。
「本当に良いのかしら?」
「何をいまさら。再三、出仕する様に言って来たのは何処のどいつだ」
「ソレはそうだけど、あんたは……」
文若が言い辛そうに口を噤んだ。俺の体の事を言っているのだろう。
以前より病を得ていた。病を持つ前ならば、腕一つで大陸を旅した事もあ
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